表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

本編1-5

6時を知らせるチャイムの音が聞こえてくる。もう少しで最終下校時刻を知らせるチャイムもなるだろう。

職員室から下駄箱のある通用口までは20メートルもないであろうほど近い。自分の下駄箱から靴を取り出し、駐輪場へ向かう。遠くのグラウンドからは野球小僧たちの掛け声と、キーンという甲高い音と、ボンッというようなボールを蹴る音が聞こえてくる。大会が近づいているのだろうか、活気に溢れた音たちが駐輪場まで響いていた。まだ空は明るさを残しており、綺麗な朱色で生徒たちを照らしていた。

頑張れ、若人たちよ。などと、ジジ臭そうなことを考えながら、自分の自転車を探す。太陽がまぶしく照らし、視界を塞いでくるのをウザったく受けながら、辺りをキョロキョロしてると、1人眩しそうに太陽を見ていた女子を見かけた。あれは…確か

「あ、さっきの子か?」

声に出てしまった。

「ん、あ。真田くん…。」

彼女が気づいて話し掛けてきた(端からみたら、俺が話をかけ始めたのだが)。

「あー、今、帰り?」

目線があったらバトルなのはポケモンで予習してあるはずだ。落ち着け、落ち着くんだ。

「うん。ちょっと用事で残ってたら、こんな時間になっちゃって…」

「そうか、色々と忙しいんだな。大変だな。」

「そんなことない…です。必要なことだからやってただけで…。真田くんはこの時間に帰りですか?」

「ん、ああ、ずっと板垣先生のお話に付き合っててね。四時くらいに職員室に入ったのに、職員室から出たのは五時だったんだよ。軽いタイムスリップを経験したから、これはこれで貴重だよね。」

「あはは、板垣先生は話が長いって友達が言ってたけど、本当だったんだね。真田くんこそ大変だったね。」

俺の初めてのウィットに富んだ話はなかなかウケたようだ。

あれ、これいけるんじゃね?初めての女子との下校、いけるんじゃね?あると思いまぁーす!!

「あ…もし、よ」

「あ、ごめんなさい。ちょっとこれから予定が入っちゃってて。もう行かなくちゃ…。じゃあね。」

「あ、うん。じゃあ。」

そう言うと、彼女は自転車に乗って帰って行った。

用事、か。まあ、彼女は彼女で忙しいんだろう。忙しない彼女を目で追う。事故に合わないように、とただただ祈るばかりだ。

それにしても、今日は良くも悪くも貴重な1日だったな。まず、女子の名前をたくさん聞く日だった。まずは風羽なんちゃらだろ?そして、神田…雨音。彼女はなんて言う名前何だろうか。同じクラスらしいから、明日確認してみるか。

板垣先生の話もたくさん聞いた日だった…。

そんなことを思い返しながら自転車に乗り、家までの道のりを走る。

さっきまで生徒達を照らしていた朱色もなりを潜め、もう夜の幾分かは顔を見せ始めていた。

点々とした星が弱々しく光っている。

眩しそうな顔で太陽を見ていた彼女の横顔をふと思い出す。どんな気持ちであの朱色をその身に写していたのだろうか。柄にもなくそんなことを考えてしまうのは、空に飲み込まれてしまったからか、ただの気まぐれか。

家路を辿る途中、空に一筋の星が流れた。

いつもよりも長い尾を引いて空の彼方に消えていった。

星が地球の温度を少し奪ったような気がした。春も半ばだが、夜は冷える。

ペダルにかかる足に力をこめ、帰りを急いだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ