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本編1-3

二年生の自分の教室から別校舎にある職員室まで渡り廊下を使い移動する。

ああいう空間はどうも苦手だ。ライオンを前にしたウサギのような気持ちになる。

無意識に神経を使い機嫌を損ねないように行動してしまう。考えすぎなのかもしれないが、無意識にしてしまうのだからどうしようもない。

あと、あれだ。相手が女子だからかもな。免疫というものがないのも原因だな。

女子とお話をした経験がないから、無駄にドキドキしてしまうのだろう。

分析したらこれまでの灰色な学校生活が見えてしまったな。考えすぎも問題だ…。

そして、あの女子2人が話していたあの噂は…

キャッ

ドサッ

固い感触が襲った後、女子の短い悲鳴と何かを落とした音が俺を現実に戻させる。

考え事をしていたせいで視界が狭まっていたらしい俺は、渡り廊下を渡り終えた先、出会い頭に女子とぶつかった。

「あっ、と、だ、大丈夫?」

女子が落としたものは資料の束だった。拾い集めながらもそう声をかける。

「大丈夫です。すいません。前をよく見てなかったもので…」

「だ、大丈夫だよ。僕の方も、その、か、考え事してて、周りをよく見てなかったから…」

拾い集めた資料の束を女子に渡して、その場を後にしようと歩き出す。突然のことで驚いて、上手く喋れなかった。それが恥ずかしくて、早くこの場から逃げたかった。

そんな僕を、女子は呼び止めた。

「あの、ありがとうございます。えと、同じクラスの真田君、ですよね?」

(うわっ…、よりによって同じクラスか…)

ヤバい、冷や汗が止まらない

「は、はは、よ、よく覚えてるね…」

「まあ、あの、同じクラス…ですし、授業中のあの事も…ありましたから。」

「そ、そう。これからは気をつけるようにするよ。はは。」

ヤバい、すごく恥ずかしい。笑い声も渇いたものしか出ない。受け答えもこれで正解なのかもわからない。しかしこのまま会話が終わるのも不自然極まりない気がしてしまう。何か、何か武器は無いのか!!

ハッ!

「……ところで、結構な量だよね、それ」

「…そうなんですよ。職員室まで運んでくれって、社会の先生に頼まれちゃって…。」

「あ、職員室に運んでくの?僕も職員室に行かなきゃいけないんだよね…、良かったら手伝うよ。」

「本当ですか。あ、ありがとうございます!」 

資料の半分を引き受けて、女子と共に職員室に向かって歩き出す。

(ふぅ、なんとか自然な流れにもっていけた。脳内選択肢は自分で探すものなのですね、先生!)

「もしかして、真田君が職員室に行くのは、今日の授業でのことですか?」

(うわぁ!!)

「あ、うん、そうだよ。…居眠りしたのは、僕が悪いからね。すごく情けないです…。」

「ふふっ、そうですね。気をつけないと、ですね。寝不足、とか?」

「いや、そんなことは無いはずだけどなぁ…。うーん。なーんか眠たくなって来ちゃってさ。気付いたら夢の中で、んで、先生に叩かれて起きたんだよなぁ。」

「へぇー、あ、どんな夢でした?」

「えっ?あー、ごめん、それが思い出せないんだよ。どんな夢だったかなぁ。」

「…そうですよね。覚えてることの方が珍しいですよね。」

そこで会話は終わってしまったが、このレス数は過去最高ではないだろうか。是非ハイライトを作って、解説付きで残しておきたいものである。

さて、職員室はこの階段を降りて数メートルの所だから、もう少しでこの女の子との時間も終わってしまう。

名残惜しいと感じてしまい、新しい話題を探し思考を巡らす。

「あっ、そういえばさ、4月の初めからずっと休んでる人のこと知ってる?」

クラスで女子2人が話していたことを思い出し聞いてみることにした。

「たしか、神田…さんだっけか、不思議だよねー、なんかあったのかな?」

さあ、相手のターンだ。ポケモンはやってたからターン制のルールは完璧に把握している。

「………。」

返答がない。

階段を降りてたから、足音が響いて聞こえづらかったのかも知れない。少しの静寂が足音よりも耳に響く。

少しの間を空け彼女が口を開いた。

「そう…ですね。神田さん。私も彼女と親しい訳ではないですから、詳しいことはわかりません…。」

「あ、そう。うん…。」

会話が終わると同時に階段を降りた。

もう職員室まで数メートルだ。

この何とも言えない雰囲気に、蛇足とはこういうことだと身を持って知った。

彼女の顔をチラッと申し訳無さそうに窺う。伏し目がちな彼女の顔を前髪が隠している。その隙間から見える彼女の瞳は何を写しているのだろう。

資料を運ぶ足は少しばかり速くなった気がした。

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