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翠は微笑む  作者: トト美咲
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転史

 何も残らない、何も変えられない。

 歴史を辿っても今は今。


 昔とは、そういうものだ。

 見つけたところで、何が出来るーー。



 ***



「あなたたちが見たかった今に連れていく。だから、私は此処にいる」

 《癒しの女神》は翠の光を照らすと頬笑みを向けて風に含む言霊を絹の肌触りをする布帯で包んで綴じる。


「ポロロ、あなたの吐息をこの者に吹き掛けて」


 《癒しの女神》に促されるポロロが「クー」と嘴を開いて囀ずる。

 解き放される息は銀色の輪に変えて《癒しの女神》の掌に乗る白い球体を弾き飛ばす。


 そして、綿毛を持つ種子と象らせると数を帯びさせて大気に舞い散るーー。



「トト様、貴女の『称号』の“力”は限界に達しておられる。私が思うにはもう、役目を終わられたほうが宜しいかとーー」

 ポロロは瞳を潤ませて《トト》に言う。


「まだ駄目です。あの子達が本当に其其の心をひとつにしなければ次期『称号』は……。それまで私が今の役目を担うしかないのです」

 《トト》は口元を手の甲で押さえて咳をする。


「まあ、大変。トト様、直ちにお身体を休ませて下さい」

 ポロロは嘴で《トト》の柔らかい翠の髪を絡め軽く櫛を通す。


「ありがとう。ああ、ニャルーもあなたのように優しい羽根で次期『称号』を支えて欲しいわ」

「トト様は種族を越えて慈悲を溢れさせています。お気持ちは、必ずニャルーに届いていることでしょう」

「『お目付け役』の〈育成〉を任せます。宜しいですか?」


「はい」と、ポロロは返事をする。



 一方、遺跡調査地ではーーーー。



「帰りましょう、リーダー」

 ジロウ=ラコは顔面蒼白でリーナ=キリシマに言い寄る。


「まだ見つからない仲間を置いて逃げるの?」

 リーナはジロウ=ラコを睨み付けると鼻息を吹く。


「リーダー、私が言うのも何ですがあの二人は我々チームの秩序を乱してばかりいたのです。いつかは騒ぎを起こすだろうと、内部では囁かれていた」

「昨日は亡者の所為と言ってたのは誰だったのかしら?」


「それはーー」と、ジロウ=ラコは口を濁す。


「調査の日程はまだあるの。二人が今頃何をどうしているのかは私が追うから、貴方はスタッフをちゃんとまとめなさい」

 リーナはテント内の隅に置く道具箱の蓋を開けて方位磁針と探知機、懐中電灯等の道具を朱色のリュックサックに詰め込む。


「リーダーッ! どうして、何時も無茶な事をされるのですか」

 ジロウ=ラコはテントの出入口に駆け寄り、両腕を広げて塞ぐ。


「退きなさい」

「嫌です」


 リーナとジロウ=ラコは睨み合う。双方は微動せず、一瞬の隙をも赦さない状態をサイドテーブルの上の置き時計の秒針と共に過ごす。


「……。解ったわ、今回は貴方の言う通りにする」

 時刻を知らせる音が10回鳴り響き、リーナが降参だと両手を挙げる。


「リーダー、矢張り行かれてください」


「ジロウ、ころころと意見を変えて何を考えているのっ!」

 リーナは歯を剥き出してジロウ=ラコの胸座に右手で鷲掴みをする。


「巫山戯るなんて、致してません。私は、私はーー」


 リーナは息苦しくするジロウ=ラコを強く握る胸座の拳を緩めて一歩後退りをする。


「何時でも真面目。ちゃんと知っているわ」

「貴女の事だ。賛同をするフリをして私に白目を剥かせるなんて思っただけです」

「まるで私が命を取ってしまうような言い方ね?」

 リーナは苦笑いをしながら言う。


「リーダー、此れは私の臆測です。此処は、ただの遺跡地ではない」

「そうね」


「歳は12ほどと思われる少年が此の地に居る。貴女は何の躊躇いもなく彼を歓迎した」

「ええ」


「ミリオン=ワンは貴女に起こりうるだろうの事を見届ける為に、我々に同行をされた」

「師匠は此処で時を刻んでいた。遺跡品を発掘する度に『証言』も聞こえていたわ」


「“真人まびと”は“玄人げんと”とひとつになると〈器〉は長い時を刻む。しかし〈魂〉が劣化をすれば“真人”としての寿命を迎える」

「その前に師匠が此処を出ていったか追い出された。経緯を知っているのが誰かとか、私は探していた」


 リーナは一度降ろしたリュックサックを背負うとジロウ=ラコの肩に掌を乗せる。


「リーダー、日程が終わる迄には戻って来てください」

「ジロウ=ラコ。貴方もマーキングの方法をみっちりと師匠に仕込まれていた。補助役はマジル=カンが適任だから、貴方がきっちりと率先しなさい」


「はい」と、ジロウ=ラコが返事をすると、リーナはテントの外へと靴を鳴らすーー。




「リーナ、良いのか?」

 遺跡地の東の位置の《女神》の像が翠に輝く傍にアキラ=ヤナギがいる。


「段取りはちゃんとしてきたわ。荷物も必要最小限を持ってきたの」

 リーナは背負うリュックサックを揺らして持ち物がぶつかる音を鳴らす。


「あっという間に役にたたなくなる。と、言うより要らない」

 アキラはリーナからリュックサックを取りあげると地面に落とすが「鉛でも詰めているのかよ」と、舞い上がる土埃を見つめて苦笑いをする。


「ご案内をお願いします」

 リーナはアキラに一礼をして顔をあげると右手を差し出す。


「ニャルー、キミにもひと役をしてもらう。だから、リーナをキミの仲間に会わせてくれるかい?」


「いいよ。リーナだったらみんな大好きと言ってくれる」

 ニャルーはアキラの緋色の髪を掻き分けて出てくると綿毛のように軽やかに翔ぶ。


「アキラの頭はニャルーの隠れ家かしら」

 リーナは笑みを湛えるとニャルーを右の人差し指に座らせる。


「今日からリーナのおつむにいる。アキラはニャルーがねんねしていると指先でないないするからいや」


「俺の頭皮によだれを垂らしている上に、花から汲み上げた蜜を溢していたのは誰だよ?」

 アキラは顎を突きだすと両手でニャルーを挟もうとするがリーナの指先を掠めてしまう。


「あ、ごめんリーナ」と、アキラは侘びをしてリーナの右手を持ち親指先を這わせていく。


「アキラ、今はーー」

「そうだったよな? 頼む、ニャルー」


 アキラはリーナから両手を離す。


「先ずは木の根っこでかくれんぼしているみんなの処に連れていって」

 ニャルーは空中に舞い上がるとリーナの頭髪の中に潜り込んでいく。


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