彩、薫る
息は甘く果実の炭酸水。
リーナ=キリシマはアキラ=ヤナギを抱きしめる。
愛おしいくて、口吻の口実としてアキラを介抱する。
自身に取り込んでいた“種”を分け与える。
雛鳥に餌を与える親鳥のように、リーナはアキラの唇を貪るーー。
「リーナ、僕は大丈夫だよ」
アキラは指先を柔らかくリーナの指先に絡めさせる。
「本当に?」
リーナは甘く囁く。
「会った時からキミは変な奴だと思ったけれど、此れで益益変な奴だと僕の頭の中に刷り込まれてしまった」
アキラは鼻から息を吹く。
「アキラ、何だか大人びた話し方をしているわよ。どうして?」
リーナはアキラを強く抱き締めると耳朶に唇を押し当てる。
「誰の所為なのかわかるだろう? リーナ」
「ふふふ」と、リーナが笑う。
「参ったよ。でも、勘弁してくれ」
アキラは漸くリーナから離れると、草の葉の上で胡座を掻く。
「根競べになりそうね」
「……。こっちはまだ子供だぞ? キミは僕に何をさせたい」
ーー早く大人になって欲しい……。
リーナはアキラの頬に口吻をすると、草原から光の粒が飛び散って二人を淡く照らしていく。
其れから、一週間が過ぎたーー。
***
「リーダー、トライポイントがまた荒らされています」
ミリオン=ワンが逝っても遺跡調査は続行される。
サブリーダーのジロウ=ラコはある疑いを持ちながら発掘品を磨くリーナに報告をする。
「アキラは『白』よ。いい加減にしなさい」
リーナは不機嫌な顔をしながら《バブルト》とラベルが貼られる箱に作業を終えた品物を入れて蓋をする。
「リーダー。私は亡者の仕業だと思うのであって、少年を指したわけではないのです」
「あら? アキラにはちゃんと『足』があるわよ」
リーナは腰をあげる。向かった先のテント内の隅に備えられる開き戸式の棚に箱を仕舞い込むと扉に錠を施す。
「リーダー、私が何を言っても少年に結びつけている。頭の中は少年だらけですね?」
ジロウ=ラコは呆れ顔をしながら掌を挙げる仕草をする。
数分後、ジロウ=ラコに“災難”が訪れるーー。
「はい、お大事にっ!」
救護所でリーナはジロウ=ラコに白目を向けて尚且つ怒りを含ませた声で言う。
「私はどうやって食事を取ればよろしいのでしょうか?」
「鼻からストローで吸えるように包帯を巻いてあげたわ」
ジロウ=ラコは巻かれる包帯の僅かな隙間から見える鏡に映る姿を凝視して「リーダー、虫刺されにしてはあまりにも症状が酷い」と、赤く腫れる両手をリーナに差し出して言う。
「此処は、私たちが踏み込んで来た場所よ。貴方の目に見えない『生き物』が貴方の身勝手な発言に頭にきたのでしょうね」
「私は報復を受けた? いえ、顔は間違いなくリーダーからのパンチにビンターー」
リーナの拳がジロウ=ラコの鳩尾に減り込むーー。
***
夜が更ける頃、遺跡調査地の北の位置にある巨大な土甕が縦列する場所であることが繰り広げられる。
「はっはっは。見てみろ、ゼコ。この中にはざっくざく詰まっている。おっと、もう少し灯りを暗くしろ」
土甕を砕いて穴に腕を通し、掌の感触に嬉々とする男がいる。
「ダン、リーダーがマーキングしているのだぞ。本人以外でしかも泥棒のようなことをするならば、亡者が怒ると所長だってーー」
ゼコと呼ばれた男はしかめっ面をしながら携帯用の灯りの目盛をひとつ下げる。
「所長? はっ! 逝ってしまった奴に何時まで頭を下げている。其れにあの女にもだ」
ゼコにダンと呼ばれた男が鼻で笑いながら言う。するとーー。
突如辺り一面が正真正銘真っ黒になる。ダンは目に針が刺すような感覚で涙を流す。土甕から引き抜いた腕は熱く燃え盛る。そして、口を塞がれる苦しさで藻搔く。
呻き声と共にダンの息が止まる。
ーー危ない、危ない。あ、そいつの《器》は甕の中に突っ込んどけ。
闇で動く何かに何者かが声を掛けると、生温くて尚且つ湿る風が遺跡の土を舞い上がらせるーー。