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翠は微笑む  作者: トト美咲
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星の下の草原

 《天》に居る〈トト〉の瞳が曇る。震える両手を気にしながら足元を縺れさせる。


「トト様、お食事はどうされますか」

 〈トト〉を《天》に連れてきた鳥が心配した様子で声を掛ける。


「ポロロ、あなたがしっかりと食べなさい」

 〈トト〉はそう言って、衣の袖口から一粒の赤い木の実を取り出すとポロロと呼んだ鳥の嘴に挟ませる。


「あなたに迷惑をかけています」

「トト様のお力に添えられない。傍にいることしかできない私を気に掛けるなんて」

「十分よ、ポロロ。あなたの翼のおかげでこうして《天》と《地》を行ったり来たりできるの」

 〈トト〉は胸元を押さえる。


「やはり、お体が優れないのですね?」

「最近は《地》に留まっていたことが多かったからよ」


 ーートト様、ミリオン=ワン様の《器》が空っぽになりました。


 綿雲に根付く植物の蒼い花房が〈トト〉に呼び掛ける。


「……。ああ、とうとう『あの方の役目』が終わってしまった。どんなに長くて辛い時を過ごしていたことでしょう」

〈トト〉が涙を溢すとポロロは翼を広げて包み込む。


「ありがとう、大丈夫よ」

 〈トト〉は呼吸を整えるとポロロの頭部を右の掌で優しく撫でる。


 ーートト、おまえと会えるとは思いもしなかった。


「……。あなた、ごめんなさい」

 〈トト〉は男の声に振り向くと、真っ直ぐと腕の中に飛び込んでいく。


「『あれ』とも最後に会えたから、私は満足をしている。しかし、此処で寄り道している時間が無いのが残念だかな」

 男は苦笑いをして〈トト〉に言う。


「私はまた貴方と離れてしまうのね?」

「おまえは《女神》としての役割が与えられている。あとは『称号』次第だ。それまで《地》にある魂の路を照らすのだよ」


「次期『称号』の風のような心を息子がちゃんと護れるのか心配なの」

「ふぁふぁふぁ、案ずるな。どれ、私は此れで《花畑》に参るとする」


「ミリオン=ワン、私がお送り致します」

 ポロロは鳥が囀ずる声でミリオン=ワンに言う。


「ああ、頼むぞ『天の使い』よ」

 ミリオン=ワンはポロロが嘴で挟む一枚の羽根を手にすると、天高く舞い上がりそして、光に溶けていくーー。



 ***



「行ってしまったわ……。でも、さよならなんて言わない」

 満天の星の下の草原の中心で、リーナ=キリシマがアキラ=ヤナギの掌を握り締めて呟く。


 アキラは微動せずにリーナに寄り添って星空を仰ぐ。


「リーナ、キミの仕事はどうなるのだ?」

「なーに? 妙な声色をさせて私になんてことを訊ねるのかしら」


 アキラは頬を赤らめて、口元を手の甲で塞ぐ。

「俺の声、変になったのか?」


「うそぉおおっ! わざとではなかったの?」

 リーナは目を丸くさせて驚きを隠せない態度をアキラに剥ける。


「身体のあちこちも何となく痛い……」


「大丈夫なの? アキラ」

 リーナはアキラの顔を覗いて言う。


「心配するな。そして、そんなに近付かないでいいっ!」

 アキラは後退りをして踵を草に絡める。すると、背中から転倒をしてしまう。


 あとに続くリーナが覆い被さり、お互いの身体が密着した状態になる。


「熱いわよ。やっぱり、具合が悪いのよ」

 リーナはアキラの耳元で囁く。アキラは逃れようと藻搔くが、リーナが手首を掴む掌はいっこうに緩むことがない。


「おい、リーナ」

「ニャルーなら、私のテントに居るわ」

「違う、俺はーー」


 ーーアキラ、私の中にある“種”で元気になって……。


 アキラの唇にリーナの唇が重なり、アキラは喉を鳴らすーー。


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