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翠は微笑む  作者: トト美咲
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真と幻

 ニャルー。ウッドブリンク族の子である彼女はアキラ=ヤナギを連れ戻そうとして“真人まびと”のユララに捕獲をされてしまうが運よくアキラと再会を果たす。


 経緯は兎に角、リーナ=キリシマとも対面をした。


 ニャルーが言う癒しの女神の〈トト〉に次期『称号』として選ばれたことをリーナはどう受け止めるのだろうーー。



 ***



「リーナ、言っとくがニャルーは『姫』ではないからな」

 アキラがリーナの指先に座るニャルーを睨み付けながら言う。


「意地悪なことを言うアキラなんて、あっかんべーだもん」

 ニャルーは舌を見せるとリーナの肩に翔び移る。


 ニャルーの羽根の音がリーナの耳元を擽らせる。

「近くでウッドブリンク族を見るのは初めて。しかも、こんなに可愛らしい姿をしているなんてね」


 リーナが言うことにニャルーは満面の笑みを湛える。

「ニャルーが『良い子』に見えるの? えーとーー」

「『リーナ』でいいわ。貴女は私を『称号』と呼びたいでしょうけどね」


 リーナはニャルーに頬擦りするとアキラの苦虫を噛み締める様子を横目で追う。


「俺に何か言いたそうだな」と、アキラはぶっきらぼうに言う。

「私は遺跡調査の為に此処に来たの。でも、貴方とこの子の生活を振り回していたならば、師匠に中止か続行かを判断してもらう必要があると思うの」


「『シショウ』?」

「“真人”だ、ニャルー。俺、そいつと会ったが『女神』がかばっているヤツだと思ったら、頭に来たものだ」

 アキラが口を突く。すると、傍にいるリーナが驚きを隠せない顔をする。


 リーナはアキラの顔を見据える。

「アキラ、あなたが言う『女神』と一緒に暮らしていたの?」


 リーナに訊かれるアキラの身体が怯む。


「どうしたの?」

「おまえが、妙なことを口にするからだよ」

「教えて、アキラ。ニャルーも良いかしら? 師匠がわざわざ病の身体を張ってまで捜している『者』かもしれないの」

「ニャルーはトト様の声は知ってるけど、お顔がわからない。アキラはトト様が見えてる」


「余計なことを言うなっ!」

 アキラは眉を吊り上げるとニャルーを掴もうとしてリーナの腕に掌を触れていく。

「アキラ、さっきも言ったけど貴方たちの生活を振り回したくない。でも、私にとって師匠は素晴らしい方なの。だからーー」

 リーナの目から涙が溢れる。滴が頬を掠めるとアキラの額に落ちる。


「止してくれ。泣くほど本気で訊いていると解ったからさ」

 アキラは困った顔をしながら緋色の髪を掻き回していくーー。



 ***



 一方、二人と一匹の話題にされたミリオン=ワン。

 テント内で医療スタッフが慌ただしく動く。


「ミリオン=ワン、ただちにホスピタルに行きましょう。此処では処置が追い付きません」

「……。もう少しで私には迎えが来る……。そして、今一度少年の顔を見て……リーナのこともーー」

 ミリオン=ワンは酸素マスクを口に被せて息も絶え絶えに話す。


「ナック=ジェイ。所長をホスピタルに移動させるにも路が閉ざされています」と、医療スタッフのバウ=ハウが言う。


「連日連夜の“威振”が原因だろう。ならば、空を飛ぶでいく」

「危険ですっ!“飛行”は我々の身体でも負荷が加わる。此処から野と山、谷を越えるほどの場所への移動となれば尚更です」


 ナック=ジェイは唇を噛み締めると医療器具が乗るワゴンの支柱を褄先で押し当てる。


「心を静かにしましょうっ!」と、バウ=ハウがナック=ジェイを取り押さえる傍で、床に散らばるピンセットと鉗子、脱脂綿と投薬トレーを二人の女性が中腰になって拾う。


「僅かな命であろうとも、延ばすが医療を携わる我々の役目。バウ=ハウ、おまえは放棄するつもりなのかっ!」

「患者の意思を尊重するのも我々の務めのひとつ。所長が何を願って此処に居られるのかを、貴方は忘れたのですかっ!」

「情にほだされて志しを見失ったバウ=ハウ。おまえに失望したとしか言いようがない」


「ナック=ジェイッ! いい加減にーー」


 ーー二人ともそこまでっ! 師匠をそっちのけにしてまで自分達を強調するなんて、見苦しいわよっ!!


 バウ=ハウがナック=ジェイの胸ぐらをつかんで殴りかかる寸前にリーナが叫びながら双方を引き離す。


「リーダー、私はーー」

「ナック=ジェイ、勝手に事を決めないで。そして、今すぐ此処から出なさいっ! 同じく、あなたたちもよっ!!」


 リーナに睨まれるナック=ジェイ。そして、バウ=ハウを含めてテント内いる医療スタッフは口を閉ざして去っていく。


「師匠、ごめんなさい」

 リーナはベッドの上に横たわるミリオン=ワンの右手を掌で包み込みながら言う。


「リーナ……。私こそおまえに詫びなければ……なら、な、い……。其処にいる少年……に、も……」


「おっさん、待てよ。俺は“幻人げんと”の生き方しか出来なくなった。そして、あんたが今から行く《花畑》にはあんたが会いたがっている『者』はいない」

 アキラはリーナの腕に掌を乗せてミリオン=ワンの目を見る。


「……大地で『女神』として今でも生きているのだな?」

「ああ、そうだっ!」


「そうか……。ならば、伝えてくれ」


「いいとも」

 アキラはミリオン=ワンの口元に右耳を翳す。



 ーー新たな『称号』をた……の…………むーーーーーーーーー。



 ミリオン=ワンは息を何度も吸い込み、最後に目蓋を静かに閉ざす。


「師匠の馬鹿。そして、アキラ。貴方もよ」

「俺は“幻人”だ」

「今、此処には私とニャルーしかいないわ。今だけ“真人”で振舞いなさい」


 アキラは唇を噛み締める。

 時間にすれば僅かであるが、リーナには口を閉ざすアキラに今かと、待ちわびる。


「アキラ。ニャルー、あっちむいてホイしとく。だから、リーナのお願いを聞いてよ」

 ニャルーはリーナが流す涙を浴びながら言う。


 ーー父さん、また会おうーーーーーー。


 アキラが動かないミリオン=ワンに囁くーーーー。


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