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翠は微笑む  作者: トト美咲
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花の羽根

 〔秋期学童遺跡スクーリング〕


 リーナ=キリシマは、個室として使うテントの中で電子ノートを開くと、画面に記載される文字を目で追う。


 ◎ノーゴトマンス1より、児童2名を受け入れる。


『ユララ』と『プク』の詳細で締め括られる日報に〈緋色の野生児〉の名を加えて記録の更新を完了させる。


 リーナはデスクの椅子に腰を下ろしたままで、腕を振り上げ背を伸ばす。


『《宝》に学び、安らぎの場を提供するのが目的』

 師匠のミリオン=ワンが謳ったのは何時だったかと、テントの天井を仰ぐ。


 現地での『本業』と掛け持ちをして《宝》を育成。リーナは、訪れる《宝》の声と仕草のひとつひとつを胸に刻ませていた。


 いつか思い出に変わる。


 調査が終われば《宝》との別れ。情を湧かせれば湧かせる程辛いものである。


 愛おしいは切ない。


「師匠。貴方は、何を探しているのかしら」

 溢れそうな涙を手の甲で押さえるリーナ。

 ミリオン=ワンの姿を思い浮かべると、ひとり言を嗚咽に変えていくーー。




 ***



「リーナ先生〈大昔の民〉も、キラキラしたものが好きだったのね」


 遺跡の広場に教壇と机が並ぶ。


 リーナは黒板にチョークで講義内容を書き記す手を止めると〈生徒〉に向けて笑みを湛える。

「ユララの『キラキラ』は、何かしら」


「先生が見せてくれた綺麗な色をしている石とか、じゃらじゃらしている首飾りもだけど、生き物もぴかぴかしていた。仕事をそっちのけをしてうっとりと眺めるをしていたから、怒った〈天の主〉が〈大昔の民〉を懲らしめた」


「待てよ、チビ。リーナはあんたが言う『キラキラ』が何を指しているのかを訊いただけだ。何故〈天の主〉が出てくるのかが、わからないっ!」

 ユララの右隣にいるアキラが、机に肘を付けて頬杖しながら言う。


「おい。飛び入り参加の癖に口が悪い言い方をするなよ」

「プク。先生の目の前で喧嘩はいけないよ」

「ユララ。こいつはユララのことを馬鹿にしたんだ」


「やるのか?」と、アキラが声を威嚇させると椅子を倒して立ち上がる。


「アキラくん、ごめんなさい。プクも謝って」

「ぷっ! 間抜け顔」

 ユララはプクの頭部に手を乗せて押し込むとプクの形相があっという間に萎み、アキラは堪らず吹き出し笑いをする。


「先生、こいつ嫌いだ」

 ユララの掌を払い除けるプクがアキラを指差して言う。


「うん、私も嫌いよ」

「何だとっ?」

 リーナのひと声にアキラは唇を噛み締める。


「『仲良くする』を知らないアキラ。そして『仲良くをしたくない』と決め付けるプク。今日はあなたたちにたっぷりと宿題をあげるから、明日には必ず提出しなさいっ!」


「わたし、手伝わないからね」

 ユララはプクに言うと、リュックサックに教科書と筆記用具を詰めて背負う。

 リーナに「さようなら」と挨拶をすると、後をついてくるプクに見向きもせずに早歩きをして去っていく。


「俺の宿題は何ですか? リーナ先生」

 アキラは生唾を呑みこみながらリーナに訊く。


「何も……。いや、この子の名前を教えることと、しっかりと『食べる』をしなさい」

 リーナは〈虫の象〉を手の平に乗せてアキラに言う。


「何でこんなところにいるのかと、此方が首を傾げるぞ」

「ニャルーは“真人まびと”に捕まったではなくて、連れて来てもらったもん」


「花びらを羽根にして翔ぶのは〈ウッドブリンク族〉と聞いたことがあるわ。そう、ニャルーと呼ぶのね?」

「お姉さん、新鮮な『称号』でしょう? お名前を教えて」


「リーナ=キリシマよ。お姫さま」

 リーナはニャルーを右の人差し指に座らせると、目を合わせて言う。


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