源の燭台〈2〉
万事休す。
ノームと対峙するアキラ=ヤナギの危機に現れたのは、ソール・ウォリングスと名告る青年と、見た目は少女のミリィだった。
彼らは敵か味方か?
そして、リーナ=キリシマは今、何処?
物語は、翠ーー。
***
ノームは、ソールとミリィを“空人”と呼んだ。
アキラは、世界にいる種族がまだいることを聞かされたようで半信半疑になった。
アキラが知っている種族は、地上で大地に足を踏むことができる“幻人”“真人”そして〈ウッドブリンク〉族と〈イキモノ〉族の4種。
“幻人”は炎を“真人”は土を操る能力を持っており〈ウッドブリンク〉族は、植物を味方にして翔ぶ能力があり〈イキモノ〉族は、種族と種族の間での情報伝達の役割を担っていた。
因みに《称号》は、全種族のうちから選ばれた者が『時代』を統括する愛称として呼ばれていた。
リーナはアキラの母親である〈トト〉より次期《称号》として選ばれた。
アキラは、リーナが次期《称号》に選ばれた理由が何かを理解していた。
《称号》で哀しまない『時代』をリーナと築きたいと、思っていた。
【志の都】で新しい『歴史』を志す。アキラとリーナは結ばれながら誓った。
しかし、リーナと離れ離れになってしまう。
ようやく手掛りが掴める。
だが、事は順調にいかなかった。
そして、今。
青年ソールが現れて、アキラの心は揺れていたーー。
***
「アキラ。いきあたりばったりは、大切なものを失うぞ」
ソールは腰に左手をあてて、右の掌を肘を曲げて天井に翳した。
アキラはソールの言うことに堪らず顔を険しくする。
「俺は、いきなり現れたおまえなんかに説教される覚えはないっ!」
「おいおい『ヒーロー参上っ!』に、逆恨みかよ?」
ソールは鼻腔を膨らませて頬を痙攣させた。
ーーあんちゃん『イッヒッヒッ』さんのいう通りだよ。お姉さんがいたら、物凄く起こられるよっ!
「なんだぁあ~? ソールさぁん~っ、このイモムシ面白いことを喋ってますだぁあ~」
ノームから籠を奪い取った金糸雀色の巻き毛をおさげに結って牛乳瓶の底のような眼鏡を掛けている、つなぎ服を身に纏った見た目は少女が言う。
「……。ウイウイ、それに名前は確かミリィ……と、呼んで良いのかい? 『ヒーロー』と真面目な話し合いをしているから、黙ってて」
アキラはミリィの様子に苦笑いをした。
「いゃあ~っ! 黙らないさぁあっ!! イモムシと同じだぁあ~。ソールさんに謝るのだなぁあ~っ!!」
ミリィは両腕を回転させて言う。
ーーニャルー、籠の中で頭をごっつんこしてるからぐるぐるはイャアア~ッ!!
「ミリィ。気持ちはありがたいが、せっかく助けたチビッ子コンビに被害を与えないでくれい……」
ソールに言われてミリィは手を止めると、籠の中でウイウイとニャルーが……目を回していた。
ーーどいつもこいつも、騒々しいっ!
凄まじい風圧とともにノームが激昂する声がして、その場にいる三人は我に返る。
「ありゃりゃ?『相手』がしびれを切らしたみたいだな」
「そうですだぁあ~、ソールさんはあの人と何かをしてたでしただぁあ~」
「二人とも呑気に構えるなっ! ソール、さん……さっきの俺と彼奴の様子は知っているだろうっ!!」
「アキラ。だから、俺は言ったのさ」と、ソールが口を突く。
「ああ、俺のことを『いきあたりばったり』と、叱った……でしたね?」
アキラは、ノームから解き放される黒くておぞましい“気力”に必死の抵抗を試していた。
ーーこういうときは『逃げるが勝ち』を選択するのさっ!
ソールはアキラと籠を持つミリィをそれぞれ両脇に抱え、バルコニーへと駆け出していくーー。
***
何処かを目指すように、大空を羽ばたく2羽の鳥がいた。
焦げ茶色の鳥は、ソールとアキラを〈トト〉を乗せる蒼い鳥は、ウイウイとニャルーが入っている籠を持つミリィを救出した。
「はぁあ~。うらやましいと思えるくらい美しいですなぁあ~」
ミリィは〈トト〉に見とれるあまりに、危うく籠を手離すところだった。
「ソール……さん。さっきは、ありがとう……ございます」
アキラは、焦げ茶色の鳥の羽毛に埋もれて言葉を濁した。
「さっきまでの威勢はどうした」と、ソールはアキラの頭髪を右手で掻き回しながら言う。
「俺……。僕は、今まで当たり前と思っていた行動が間違いだなんて考えることはなかった。何が正しいのかさえ、当たり前だと思っていた。当たり前が間違い……。なんて、今まで気付くことはなかった」
アキラは鼻を啜りながら肩を震わせていた。
「随分と疲れる生き方をしていた。俺は、おまえの顔を見てすぐに解った」
アキラは、ソールに振り向くことはしなかった。
ソールも、アキラの顔を振り向かせることはしなかった。
2羽の鳥は、ソールの指示にしたがって空を南に羽ばたかせた。
見下ろす大地は風、薫る。
越える山は、朱と黄金色に染めていた。
「クー」と、囀ずる蒼い鳥の促しに誰もが目に焼きつけるのは……。
まさに、碧が生まれる……澄みきる海の色だったーー。




