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翠は微笑む  作者: トト美咲
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源の燭台〈1〉

 愛するリーナ、愛おしいリーナ。

 アキラ=ヤナギの胸のうちは、リーナ=キリシマへの一途な想いで溢れていた。


 リーナを取り戻す為、アキラは琥珀の宮殿に隠るノームに立ち向かっていった。


 ノームが身にまとう装束の装飾品がリーナを取り戻す為の手掛りだと、アキラは信じてノームに挑むーー。



 ***



 焦げ茶色の鳥から飛翔したアキラは、ノームの目の前に舞い降りる。

 アキラは鋭く、細くした目でノームを睨みつけた。


「愚かな少年よ。おまえは『称号』の役割が何と思っているのだ」

 ノームは腰紐の結び目をほどき、装束の上衣を右手で剥ぎ取ると、袖無し黄土色のトップスと黒い七分丈のズボン、灰色の布靴姿で身構える。


「そんなの知るかっ! 知ったところで、何も変わらないっ!!」

 アキラは脇を閉めながら掌を拳にして、曲げた膝の位置まで腰を落としてノームへと右足を一歩前にして水晶の床に着けて言う。


 ーー俺があいつの懐に入った隙におまえたちは『飾り』を引きちぎってくれ。


 ノームへ挑む前に、アキラはウイウイとニャルーに指示を促していた。

 小さい身体のウイウイとニャルーならば『相手』に気付かれずにリーナを取り戻す〈象〉を手にすることが出来る筈だ。

 ただし、自分が『相手』を引き付ける間のみ。

 時間を稼ぐなどはせずに手っ取り早くしなければならない。

 だが『相手』は装束の上衣を脱いだ。ウイウイとニャルーは闘いに巻き込まれることなく〈象〉を奪うことに専念できる。


 アキラは、頭髪に潜るウイウイとニャルーに合図をしようと右の指先を頭部に挿す寸前だった。


「私の身体の一部にでもおまえが触れることができたならば、脱いだ衣から飾りをくれてやろう。できなかったら、おまえが連れている小さい種族を私によこす。条件をのめないであれば、空にいる鳥二羽と《女神》を置いて立ち去れ」


 ノームは不敵な笑みを湛えて右の腕を天井に向けて伸ばし、人さし指で差しながら足の歩幅を左右に広げてアキラに見せる。


「ぐ」と、アキラは眉を吊り上げて頬の内側を噛み締めた。


『相手』は何もかも先回りしたようなことを言った。さらに勝利するといわんばかりの態度まで示した。


 ーー『此れ』が『称号』でなかったならば、どうするのだ。


 追い討ちをかけるように『相手』が先程アキラに問い詰めた言葉が、アキラの頭の中に掠める。


 ーーアキラ……。


 アキラは、リーナの姿と声で怖じける心情を払拭する。

 首を何度も横に振り、綴じる目蓋を大きく広げてノームを睨みつけた。



「おまえなんかに誰も奪わせない、逃げもしないっ! ただひとつ、俺の手でリーナを取り戻すっ! それだけで十分だっ!!」

 アキラは頭髪からウイウイとニャルーを水晶の床に降ろすと、叫びながらノームへと駿足した。


 ノームは天井に向けて伸ばしていた腕をおろして、変わらず笑みを湛えていた。

 ノームの勝ち誇る顔が、アキラにとっては余計に不快感を与えていた。

 それでもアキラは、右の拳に緋色の炎を焚かせる。

 歩幅にすればノームの10歩前の位置でアキラは走ることを止めて水晶の床を蹴り、弾丸のように全身を飛ばした。


(何故、防御をしないのだ)


 アキラが腑に落ちない思いをするのは、理由があった。

 直進で迫っているにもかかわらず、ノームは避けるような素振りをしていない。


 ーーアキラ……。


 アキラはまた、リーナの姿と声を頭の中に浮かべて木霊をさせて緋色に焚き付ける拳をまっすぐとノームの身体の中心へと叩き込んでいった。


 しかしーー。


 アキラの身体は、水晶の床に硝子玉が転がると思えるような状態になった。


(おかしい、確かに奴に触れたんだ。間違いなく、俺はーー)


 アキラは、息を大きく吐いて立ち上がろうとするが、身体を床に叩きつけた衝撃の為に途中でふらつき、ようやく足を踏ん張るような体勢でノームへと振り向いた。


 ノームも、同じくアキラを見ていた。

 アキラの拳に痛みを感じる様子はなく、顔はまるでアキラを嘲笑っているようだった。


「勝負ありだ。少年よ、先程私が述べた三の条件でうちひとつを、差し出して貰おう」

 高笑いに近い声のノームが言う。


(まずい、奴はあいつらを捕まえようとしている)


 ノームの視線の先にウイウイとニャルーがいると、アキラは気付く。


 ノームはゆっくりとした歩調で、水晶の床に脱ぎ捨てた装束の上衣へと近づいていた。


 ーーあんちゃん、変なおっさんに負けちゃったのか?


 ーーウイウイ、ちゃんと見てなかったのねっ!アキラは『悪い人』の身体をすり抜けていっちゃったの。


 ノームの脱いだ装束の袖口にウイウイとニャルーがいた。

 ウイウイは口から噴いた銀色の糸を装飾品の縫い目に何重にも絡ませて、ニャルーとともに束ねた糸を引っ張って縫い目を千切るつもりだった。


「ウイウイッ! ニャルーを連れて早く逃げろっ!!」


 アキラはウイウイとニャルーに呼掛け、思うように動かない身体でノームに追い付き、今度こそといわんばかりにノームの腕を掴もうと掌を伸ばすが、再び床に転がってしまった。


「あんちゃんっ!」

「アキラッ!」


 ウイウイとニャルーは虚しくも、アキラの目の前でノームが持つ蔦蔓で編み込んだ箱形の籠で、蓋をされるように閉じ込められる。

 蔦蔓の幾つかの先端が、ウイウイとニャルーの足元に這い、先端と先端が絡んで最後は蓋が閉じたと思えるような形となった。


「ウッドブリンク族とイキモノ族。私が大切に飼うことに安心をするのだ」


「いやぁああっ! イヤな目でニャルーを見ないでよぉおおっ!」

「オレもニャルーと同じだっ! おまけにこんな風通しが良すぎるところは、オレは好みではないっ!」


 籠の中でウイウイとニャルーは、ノームから必死に身振り手振りで抵抗した。


 アキラは悔しかった。

 一方で、ノームの身体がどこか違うということにも気付くのであった。

 ノームに2度もかわすことをされてしまった。しかし、瞬時に移動したような形跡がないとも、アキラは思うのだった。


 そして、アキラの疑問は確信となる。


 奴は“止人しびと”だから、身体は〈象〉に見えている。目には見えているが、肉体ではない為に物体どころか陽の光も影も貫いていく。


 アキラは陽に照らされて、水晶の床に影を落としていた。一方、ノームといえばアキラと同じく陽に照らされているにもかかわらず……影が落ちていなかった。


 “暁の炎”はリーナの居場所を突き止める為のものだ。だが、今居る『場所』にリーナがいるのだろうかと、アキラはだんだんと弱気になりそうな様子だった。


 追い討ちをかけるように、ウイウイとニャルーがノームに囚われた。


(リーナ……。ごめん)


 アキラは脱力感の為に、水晶の床に両手と両膝を着けて頭を前に低く傾ける。


 ーー意気がってたわりには、凄い速さでのへこみ具合だな?


 アキラは、どこから聴こえているのかわからない男の声に顔をあげて、立ち上がる。


「何者だっ! 姿を現せ」

 ノームも声に気付いたのだろうか、室内のありとあらゆるところを見渡していた。


 ーーソールさぁん、あのひとが持っていた籠を奪ったけどぉお、どうするといいですだぁあ~?


 少女と思われる甲高い声に「なに!?」と、ノームは驚愕してすぐに掌を確認した。


 ノームは顔つきを厳つくさせて、ようやく視野にいれたふたつの姿を見据える。

「“空人くうと”よ、どうやって宮殿に侵入した」


「俺たちに言ってるのか? ミリィが石を片手に『友達が大変だぁあ~!』と、騒いでいたのを見ていたら、次に目の前に見えたのが『此処で』どんちゃん騒ぎをしているあんたたちだった。で、何だかそこの……え~と、名前は何?」

 ライトグレイの髪と紫の瞳の青年が、アキラを見て訊ねた。


「……。アキラ=ヤナギだ。あんたこそ、何て名前だよ」


 頭にバンドをはめて、両手に肘まで覆うグローブを着けている。アキラが見たことがない機能性がありそうな服装の青年に、アキラは訝しい目を剥けて言う。


「ソール・ウォリングスだ、アキラ」


 名を告げるソールは、歯を見せて笑みを湛えたーー。



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