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翠は微笑む  作者: トト美咲
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並世〈1〉

 アキラ=ヤナギは鳥になった。

 もとい、羽ばたく鳥のように軽やかに、空を駆けたり地面に降りたりをしていた。


「アキラ、ずるい」

 リーナ=キリシマは、身軽なアキラを懸命に追いながらふて腐れる。

 アキラが少年の姿に(再び)なってからというもの、年相応というべきの行動が目立つと、リーナは感じていた。

 最初に出会ったときの敵意を剥き出しにした目つきはなく、生き生きとのびのびとした仕草が愛くるしい。


 アキラを愛している。

 リーナがアキラに抱く想いは変わらなかった。だから、気持ちを確かめるような言葉と態度はしたくない。


 何故ならば、アキラと強い絆で結ばれたと、リーナがけして揺るがない信念だったからだ。


 ーーリーナ。ごめん、ウイウイを受け取って。


 空の彼方よりアキラの声がする。目を凝らすと砂粒のような象が降ってくるのが見えた。


「仕方ないわね」と、リーナは頬を緩めながら降ってくるウイウイの真下に駆け寄り、掌を広げて待ち構える。


「ああ、ビックリした。あんちゃん、急にぐるぐる回り出すからオレが目を回してしまった」

 リーナの掌の中で二回、三回と跳ねるウイウイは今にも吐きそうな声色で言う。


「ウイウイより、おいたが上手かもしれないわね」

「うう。お姉さん、だったらあんちゃんを叱ってよ」


 ーームリ、ムリ。だって、アキラは言うこと聞かないけれど、怒られたりはしないもん。


「ん、ちっちゃいもの。まるであんちゃんをかばっているいい方だね」

 ウイウイはリーナの頭髪から覗いて見るニャルーに言う。


「ニャルーを『ちっちゃいもの』と、呼ぶウイウイなんてあっかんべーよっ!」

 ニャルーは頬を膨らませると、リーナの頭髪の中に身体を埋める。


「あらら、ウイウイは意外と繊細なのね」

 背中を丸くするウイウイを見ると、リーナは堪らず吹き出し笑いをする。


「良い『オトコ』は黙っているのがカッコいいのだろう? だったら、オレはそういうのを目指す」

「ウイウイ、あなたには無理だと思うわ。さあ、ニャルーも引っ込み思案をせずに、素直にウイウイとお話しをしなさい」


 リーナは頭髪の中に潜るニャルーを右手の指先で抓みあげると、左手に乗せるウイウイと正面に向き合わせる。


「だってぇええ、この子いきなりニャルーのほっぺにチューするんだもん」

 リーナの指と指に挟まれるニャルーは、逃げたいといわんばかりに両腕と両脚を振り子のように振り回していた。


「たった一言で良いの。ニャルーは、いつからお礼が言えない『悪い子』になったのかしら」


 リーナの言うことにニャルーは「う」と、唇を前に突き出してとがらせる。


 ーーニャルーをまもってくれて、ありがとう……。


 リーナの左手の上に乗って、目の前のウイウイに顔を真っ赤させてニャルーが言うーー。




 ***



 リーナとアキラが歩く虹の路の下は、緑の絨毯というにふさわしい大地が広がっていた。

 路は何処かに続いていると、お互い足を止めることなく先に先にと、突き進む。

 先程出会った《人影》のような状況もなく、まさに順調な進み具合だった。


「アキラ、何か落ちているわ」

 リーナは左手でアキラの腕を掴み、視野に入った足元にある銀色の丸い固体に右手の人さし指で示した。


「わかった」と、アキラは首を縦にふり、腰を半ばあげて立ちかかった姿勢で固体が小指の先ほどの形と確認して、右手の指先で挟んだ。

 アキラは澄みきった蒼い空に固体をかかげて、中を透かして見る。


「リーナ、キミの『得意分野』の出番だよ」

 アキラは顔色を明るくしてリーナに固体を差し出した。


「あら、よくおぼえていたわね」

 リーナはアキラの言うことに頬をゆるめ、右腕を伸ばして手で掴もうとした。


 アキラは固体を握りしめて、リーナの上下左右に腕を振り回す。


「アキラぁああっ!」

 リーナの顔は笑っているが、声に怒りの感情を含ませてアキラの右手首を両手で掴もうとしては離されるを繰り返していた。

 地面から軽やかに跳ぶアキラは、リーナの頭上より高い位置で一度止まってあおむいて後ろにそりかえる姿勢を三回転じて、リーナより離れた位置に着地する。


「あはは、今度は本当に頼むよ」

「仕方ないわね」


 アキラは無邪気な顔をリーナに向けて、手の中の固体を頬を膨らませるリーナの掌に乗せようとするときだった。


 ーーあんちゃんっ! そのカマタリをお姉さんに渡したらダメだっ!!


「なんだと? ウイウイ」

 すでにリーナの手の中には固体が押し込められ、アキラはウイウイが言うことに怪訝な顔をしながらリーナを見つめる。


「心配、し、ない、で、いい……わ。だって、だって……や、やっと…………誰も、か、なしま、な………………い、じ、だい、がーーーー」


 ーーわたしが《称号》になって、路に光をあてて明るくするから……………………。


 リーナは身体を空から降り注ぐ光を貫きアキラの影さえ通すような硝子ガラス状になりながらアキラの唇に唇を重ねると、溶けるように消えていく。


「そんなーー」

 アキラはリーナにしがみつくような状態で、呆然と立ちつくす。

 身体中から気力が抜ける、涙を溢したくても溢せない。此のまま何処かにいくことができないだろうかと、アキラは悲嘆にくれていた。


 ーーアキラ、絶望的になってはいけません。あなたの中にある心の炎を焚きなさい。


 なつかしい声に、アキラは何処から聞こえるだろうと辺り一面を見渡す。最初は目の前、次に足元。そして、空に勇気を振り絞って見上げる。


「クー」と、囀ずる焦げ茶と蒼い鳥が一羽ずつ、アキラの真上で右に旋回して羽ばたいていた。


 ーーアキラさん、あなたのご両親もこうして再び会うことが出来たのです。わたしは、あなたのご両親から素晴らしいことを学んだ。だから、わたしも恐れたりは致しません。


 蒼い鳥は、空からアキラの目の前に着地をすると、茶色の瞳でアキラを見つめたーー。

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