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翠は微笑む  作者: トト美咲
18/28

翔輪

 昔は今、今は昔。

 遠くて近い明日は、もうすぐ訪れる。


 物語は、翠。


 明日を信じて『歴史』の真と幻を絶ちきり〈新〉として始めようとする幕があがるーー。



 ***



「ポロロ、おまちさい」

 地上にいる〈トト〉は、翼を広げて飛び立とうとするポロロを呼び止める。


「〈トト〉様、ゆるしてください。わたしは、行きたいのです。行かないといけないのです。此のままだとあのこは心を空っぽにさせてしまう、あのこはずっと迷ってしまう、わたしが……わたしが傍にいって抱きしめないといけないのです」

 ポロロは、羽根を散らして泣きながら鳴く。


「ポロロ、あなたはとうとう思い出してしまったのですね」

 〈トト〉は、涙を溢してポロロを抱きしめた。


「わたしは、あなたがいたからわたしだった。あなたの優しさに甘えていたのは、わたし。そう、わたしがいけなかった……。苦しみをあたえたのは、わたしだった」

 ポロロは〈トト〉が溢す涙を嘴で拭い「こくん」と、滴を呑む。


 〈トト〉はエメラルド・グリーンの瞳にポロロを映して眩しく、優しく、あたたかい笑みを湛える。

「今一度、時を見に行きましょう。そして、あの子達を見守ると、参りましょう」

 〈トト〉はポロロの翼に掌を乗せて、空を見上げる。


「クー」と、囀ずる1羽の焦げ茶色い鳥が空中で右に旋回していた。


「ポロロ」

「はい」


 ポロロは〈トト〉の促しに応え、落下してくる固体に向かって両翼を広げて上下に動かして行くと、嘴を開いて挟んだ。


「こっちにいらっしゃい」

 〈トト〉は鳥に手招きをする。

 鳥は何度も囀ずり、地面に根付く黄色い花を咲かせる草葉に風を吹き込ませて着地した。


「〈トト〉今までよく頑張ってくれて、感謝をする。あとは、私たちの『証し』に任せよう」

 鳥は愛おしいく〈トト〉のエメラルド・グリーンの長い髪に嘴でくしけずる。


「ああ……。あなたは、あなたは本当にあなたなのですね」

「まさか、私に気付くとはな」


「わたしがあなたを忘れるわけありません。もう、離れないでほしい」

 〈トト〉は、全身を鳥の柔らかい羽根の毛でおおうようにして、外から見えなくする。


 鳥は〈トト〉に抱きしめられた。

 鳥の濃青色コバルトブルーの眼が幾度もまばたき、蒼い鼻から吸い込んだ〈トト〉のペパーミントの薫りで、頬はいっぱいになる。


「なんて、心強いでしょう。あなたたちの素晴らしい絆が私に勇気をあたえてくれた。私も、あなたたちのように何度も時をめぐり、手を取り合うと決めます」

 ポロロは、嘴に挟む固体の鎖を《吟唱樹》の枝に絡ませると、固体の中心で耀く薄紅色の宝石に嘴の先で突いた。

 個体は二枚貝のように蓋が開く。


「ポロロ。いえ、あなたの呼び方を昔に戻して良いかしら」

 〈トト〉は蓋が開く固体の中に納まる《象》を見つめていた。


「はい」と、ポロロはうなずく。


 ーーメリ=アン……。


 〈トト〉が名を呼ぶと《吟唱樹》が枝葉を揺らしてまばゆく翠を照らし始めるーー。




 ***



「リーナ、僕のうしろに隠れて」

【志の都】にのびる虹色の路を歩くリーナ=キリシマの前方を、アキラ=ヤナギが左腕を水平に伸ばして遮る。


 アキラは、正面から近づく《人影》を見据えていた。歩き方はどことなくぎこちなく、支えるはずの身体は左右に大きく揺れていた。


「怪我をしているのかしら」

 リーナは褄先を伸ばすが、アキラの腕の為に相手の顔がハッキリと見ることが出来ない。


「あんたは、何者だ」

 アキラは《人影》に向かって呼び掛ける。


 ーーなんということだ【志の都】に路をのばしたのが《真と幻の間の子》とはな……。私は、どうやら幸運を手に入れることができそうだ。


 《人影》は口から黒煙のような息を吐く。


「アキラ、こっちから行くはしないの」

 リーナはアキラの逞しく、広い背中に両手を乗せて言う。


「リーナ、キミも気づいているだろう。あいつはただの《人影》では、ない。証拠にやつの右腕の肘から下が無い」


 アキラは額から汗を滴らせていた。

 玉のような滴は目に入り、アキラの視野がぼんやりとする。

 アキラはそれでも拭うことをしなかった。


 1秒の油断が隙をあたえる……。相手が何者かとわからないならば、なおさらだとアキラは思った。


 ーー私は、強い。私は、無限。私は、永遠。私が手にしたいのがそこにある。じっとしているのだ、私は喉の乾きを、寒さの震えをやっと止めることができるのだからな……。


 目の前の不気味な笑みを湛える《人影》が草葉を踏みしめて近づく。


「リーナ」

「任せて、アキラ」


 リーナはアキラの呼び掛けに相づちをすると、アキラの後ろで腕を空に向けてのばす。ひろげる掌におびただしく光の粒が集まり紫水晶アメジストをおもわせる光の輪が表れる。


「あんちゃん、オレもお姉さんの手伝いをする」

 アキラの右肩に乗るウイウイが言う。


「そうか……。頼むぞ」

 アキラはウイウイと目を合せて、優しく笑みを湛える。


「アキラ。ニャルーも、ニャルーもっ!」

「ニャルーは俺たちに『頑張れ』と、掛け声をしてくれ」


 アキラの返答にニャルーは「ぷう」と、頬を膨らませた。


 アキラはニャルーの膨れっ面に笑みをむけると、リーナから放たれた紫の輪を見上げる。


「リーナ、奴にするべきのことは、キミだったら何かはわかるだろう」

「うん。今の私は、あなたがいる。だから、うまくいくと思っているわ」

「さっき助け出したウイウイたちと違って、遠慮なくぶちかますっ!」


「ウイウイ」と、リーナは促す。

「がってん」と、ウイウイは口から紫の輪の中に目掛け銀色の糸を噴き出して、何重も糸を絡ませる。


 アキラの掌から緋色の炎が燃え盛り、火の玉に形を変えると糸が絡む輪へと飛んで焚き付けていく。


 リーナは輪を掴み、掌の上で浮かべる。

 アキラはリーナの背後にまわるとリーナをささえるように両手を肩に乗せて《人影》を今一度見る。


「此処は【志の都】だから、たとえ“闇”でも望むものを志すことが出来る。叶うためのものだったら【此処】は受け入れる。善も悪までも、叶えたいものはすべてを受け入れるーー」

「歪んだ気持ちのままで“止人しにん”として生きる。そんな奴まで【此処】に来ることが出来る《歴史》があった」

「【遺跡】で昔生きていた……。何かが起きて、何かのきっかけで【此処】に訪れた。でも、苦しみはそのままだった」


 リーナとアキラは《人影》が吐く黒い息から“残生”を見つけて言う。

 リーナは叶えると苦しみで生きることを、アキラは《歴史》を思いながらだった。


 お互いの気持ちは同じだ。と、リーナとアキラはうなずいて呼吸をととのえる。


 リーナは両腕を水平に伸ばして掌の上の輪を《人影》に合わせるように向けて、アキラはリーナの腕に手を差し出して、重ね合わせるようにする。


 ーーあなたが見たかった時に、いってらっしゃい……。


 リーナが言葉を紡ぎだすと、輪はまっすぐと《人影》に飛ぶ。

 《人影》の頭上で輪がまばゆく輝き、噴き出す炎が《人影》を焚き付けていた。


 ーーああ、喉が潤む、身体があたたかい。心地よくて堪らない……。


 炎の隙間から見える《人影》の顔は穏やかで、声は安らぐを思わせて透き通るようにさせていた。


 リーナは両手を空にはばたく鳥の翼のように何度も向ける。そして《人影》は炎で焚き付けた身体で空を目指し、雲に届く距離で緋色と紫水晶アメジストの光の粒と形を変えて散ったーー。




 ***



 ーーリーナ、リーナ……。


 リーナは目を覚ます。仰向けのままで辺りを見渡すと、アキラの姿が見当たらないことに気づくのであった。


 堪らず勢いよく上半身を起こすが「慌てて起きたら立ちくらみをするよ」と、声がする方向を探すとーー。


 リーナの目は何度も瞬きをしていた。


「アキラ、あの……」

 リーナは思ったことを口にしたかったが、どうしても言うことができなかった。


「ははは、気付いた?」

 アキラが照れて笑っている。しかし、リーナが言いたかったことはそんな理由ではなかった。


「ちょっと残念だけど、やっぱりーー」

 リーナはアキラを両手で抱きしめて、愛おしいく頬をアキラの頬に擦り付ける。


「参ったけど、ま、いいか」

 少年の姿のアキラが突いたひと言だった。




 ーーいゃああっ! なにするのよぉおおっ!!


 ウイウイに頬を口付けされたニャルーが……ウイウイを突き飛ばしたーー。



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