決着
その日の夕方になって、魔法アカデミーの魔法使いと帝都の守備隊の奮戦により、帝都のあちこちに現れたゾンビはすべて破壊され、火事も鎮火、(ラードの差し金か、騒ぎに乗じて暴れ出しただけかは不明だが)混沌のモンスターたちも撃退されたとの報がもたらされた。どうにかこれで、事態は沈静化したと言えるだろう。
魔法アカデミーの魔法使いたちは、次々と魔法の杖に乗って戻ってきた。パーシュ=カーニス評議員が大会議室に現れ、帝国宰相に作戦遂行の経過を説明していると、
「ふぅ~、今日はよく寝たなぁ~」
ツンドラ候は目をこすりながら顔を上げた。ようやく目が覚めたようだ。
「そうだ、会議はどうなったんだ? 終わったなら、さっさと帰ろうぜ。」
「まだ続いています。でも、もうしばらくすれば終わるのではないかと……」
「そうか。今日は長いなぁ。まあ、いいや。だったら、もうひと眠りしよう」
ツンドラ候は再び寝息を立て始めた。なんというか……なんとも言いようのない人。
その後、程なくして、対策会議は終了。わたしはツンドラ候を起こし、館への帰途についた。
対策会議は次の日以降も開かれた。でも、何かが決まるということはなく、ただダラダラと時間をつぶすだけだった。先日の大規模なゾンビ化の後、散発的な、ごく小規模なゾンビ化の発生はあったが、帝都の守備隊が駆けつける前に、ゾンビは住民によって始末された。キム・ラードがいなくなったのだから、再び大規模なゾンビ化が発生することはないだろう。混沌のモンスターも暴動を起こすことなく、帝都は平穏な日常を取り戻していった。
事態が落ち着きを見せるにつれ、対策会議には、次第に一件落着したような雰囲気が広がり、社交場と変わらなくなっていった。ゾンビ化のメカニズム、魔法アカデミーや宮殿を襲った謎の魔法使いの正体など、解明すべき課題は多いはずだけど、好都合なことに、今や誰もそんなことに興味はなくなっていた。
結局、対策会議は「当分の間、開会しないこととする」ことが議決され、事実上の解散となった。
でも、わたしにはすることが残っている。わたしは「ミスティアをください」と、帝国宰相に約束の履行を求めた。
しかし帝国宰相は、やんわりと拒否し、
「いや、あの約束は、窮迫につけ込んだ暴利行為だから、法的に効力を有しないのだよ」
暴利行為が無効なのは分かっているが、タダ働きでは口惜しいので、「仮に約束は無効でも、功績に応じた恩賞を下さい」と、何度も帝国宰相に要求を繰り返した。
すると、とうとう帝国宰相も根負けしたのか、
「分かった。そこまで言うなら、褒美を取らせることとしよう。しかし、ミスティアは……」
結論としては、謎の魔法使いから魔法アカデミー及び宮殿を守ったことの褒美として、帝都の一等地に屋敷をもらえることになった。ミスティアよりもかなり小さいけど、元手はかかっていないから、丸儲けには違いない。




