帝国宰相窮する
ラードが何を考えているのか分からないが…… でも、まあ、いいか。
ヤツが何を考えようと、基本的に、わたしには何の関わりもないことだし、こちらからあれこれと推し測っても益のないこと、時間を無駄にするだけだろう。ここは、「ハーフ・オークの考えることは、分からない」という結論で落ち着くことにしよう。
一方、帝国宰相は、落ち着きなく椅子に座ったり立ち上がったりを繰り返していた。魔法アカデミーの優秀な魔法使いは既に出払っている。残っている者では、ラードにはかなわないだろう。
実際、何人かの魔法使いが魔法の杖に乗って迎撃に向かったが、ある者は炎に焼かれ、別の者は電撃に打たれという具合で、顔面は崩壊していても実力は段違いのラードの前に、ことごとく敗れ去った。
エース級の魔法使いが戻ってくればなんとかなるとしても、見た感じ、それまでもちそうにない。このままむざむざ魔法アカデミーや宮殿を破壊されたとすれば、最終的には帝国宰相の責任も問われかねない。どうする、帝国宰相?
わたしが傍観者的立場で帝国宰相を眺めていると、宰相は、突然、何かを思い出したかのように、わたしの方を向いた。なんだかイヤな予感……
帝国宰相は、つかつかと早足でわたしに歩み寄り、
「ウェルシー伯、『黒龍マスター』よ、わが娘よ!」
いきなり「黒龍マスター」とか「我が娘」って……
でも、わたしは努めてポーカーフェースを崩さず、
「これはこれは帝国宰相、ごきげんよう。どうかされましたか?」
「ははは、おまえは元気そうじゃな。しかし、この際なので、前置きはなしじゃ。単刀直入に言おう。力を貸してほしい。あの魔法使いをどうにかしてくれぬか。この場で戦力として期待できるのは、隻眼の黒龍だけじゃ」
帝国宰相は口元に笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった。鋭い眼光でわたしを凝視している。
わたしはニッコリと帝国宰相に笑みを返し、
「引き受けても構いませんが、条件といいますか…… つまり、わたしからも単刀直入に申し上げますと、ドラゴニアをいただければと……」
「なっ!?」
帝国宰相は口を大きく開け、目を丸くした。このような返答は予想していなかったのだろう。のみならず、帝国宰相の背後では、ドラゴニア侯が「そんなバカ」とか、「非常識にもほどがある」とか、大声でわめいている(確かに、交換条件で自分の領地を召し上げられては、かなわないだろう)。
でも、わたしとしては、帝国宰相のためにタダ働きをする義務も義理もないし、魔法アカデミーや宮殿がどうなろうと関わりのないことだ。多少の報酬を要求するくらいなら、正当な権利だと思う。




