どこが「天才的」か?
何者かが魔法で攻撃を加えているとのことだけど、それが誰なのかは想像がつく。
「とてつもなく醜い男が、魔法の杖に乗って、空中から攻撃を!!!」
官吏は口から泡を飛ばして叫んだ。「とてつもなく醜い」といえば、ハーフ・オークのキム・ラード以外に考えられない。ヤツが言っていた「天才的な復讐プラン」とは、住民のゾンビ化による帝都の混乱に乗じて、魔法アカデミーや宮殿を破壊するということなのだろう。ラードは、事実上、魔法アカデミーを追い出されたということだから、その復讐と見て間違いないと思う。
「でも…… このどこが『天才的』なのかしら?」
と、わたしは首をひねり、独り言。
住民のゾンビ化が陽動で、宮殿や魔法アカデミーの破壊が本命という作戦では、余りにもありきたりに過ぎるのではないだろうか。
「ねえ、プチドラ、あなたはどう思う?」
「どうかなあ。ハーフ・オークの考えることは分からないけど、魔法アカデミーの破壊で終わりとは思っていないのかも……」
プチドラの話によれば、宮殿や魔法アカデミーを破壊できたとすれば、「こいつぁ、すごいヤツだぜ」みたいに、裏の世界での評価もうなぎ登りに上昇するので、ラードはそれを狙っているのではないかとのこと。
「でも、いくら評価が上がったって、所詮アウトローでしょ。それに、裏の世界での評価を上げて、そこからどうするのかしら。その次の目標は、何?」
「そうだね…… う~ん、確かにそれはあるね」
プチドラは「えへへ」頭をかいた。それほど確信を持って言っていたわけではないようだ。裏の世界での評価が上がれば、古くからの大勢力「カバの口」にスカウトされることもあるだろうし、自分の組織を立ち上げて構成員を集めるときには有利になるだろう。でも、そのために宮殿や魔法アカデミーを攻撃するのでは、リスクが大きすぎるのではないだろうか。魔法アカデミーを破壊して溜飲を下げることはできるとしても。
あるいは、自らが宮殿や魔法アカデミーを破壊している間に、ゲリラ的に暴れ出したという混沌のモンスターたちに帝都を占領させ、政権交代を目指すみたいな……でも、さすがにこれは、現実味に乏し過ぎるだろう。
「……う~ん、どうしたんだ? 何か、あったのか?」
ツンドラ候が顔を上げた。さすがの「単細胞」も、これだけ騒がしくなれば眼が覚めるようだ。
「いえ、会議が紛糾して、ほんの少し騒がしくなっただけのことです。どうということはありません」
「ああ、そうか。だったら、もう少し寝ていよう」
再びツンドラ候は顔を伏せた。
こんなときに、この「単細胞」は…… 心底から、本当に幸せな人だと思う。ともあれ、この場で下手に騒がれても話が面倒になるだけだから、居眠りしていてくれるのはありがたいことだ。




