突然の襲撃
幾人もの魔法使いがスクランブルのように、魔法アカデミーから飛び立った。大会議室の窓から眺めると、まるでエアショーのようで、なかなか壮観。
プチドラはピョンとジャンプし、わたしの肩越しに、
「この人たちは、魔法アカデミーではエース級だろうね」
プチドラによれば、魔法アカデミーでは、特に成績が優秀な者を師範としてアカデミーに残し、魔法の研究に従事させているとのこと。この辺りのことは、教授、准教授といった伝統的な大学研究者のヒエラルヒーによく似ている。
「ということは、この人たちの魔法の能力は優秀なのね」
「一応、優秀ということにはなってるけど……」
プチドラは「う~ん」とうなった。優秀な人を残すのが原則とはいえ、魔法の能力よりも政治力がものを言う場合もあるらしい。すなわち、それほど能力がなくても魔法アカデミー評議員に気に入られていたりすると、師範として採用され、その後は後釜の評議員になるなどして、魔法アカデミー内での出世の階段を上っていくということが、往々にしてあるとのこと。こういうことは、世間一般にもよくある話だと思う。
「帝国宰相、魔法アカデミーの連中の好き勝手を許していてはいけませぬぞ。あんな連中に大きな顔をされては、威厳が保てません」
ドラゴニア候は帝国宰相に詰め寄り、ヒステリックにわめいている。
帝国宰相は、苦りきった顔で、
「分かっておるわ。しかし、やつらは皇帝陛下直属の魔法アカデミーの者ども、うかつに手は出せぬ。それに、今現在、住民がゾンビに変化している緊急事態で、機敏に動けるのはヤツらだけじゃ」
「むむむ……」
ドラゴニア候は、いかにも口惜しそうにうめいた。帝国宰相・ドラゴニア候派とツンドラ候派の二大勢力で争っているとばかり思っていたけど、それほど単純なものではないかもしれない。
わたしはツンドラ候の方を向いた。よく知っているとは思えないけど、一応、ツンドラ候に派閥のことを聞いてみたいと思ったから。
しかし…… ツンドラ候は気持ちよさそうに寝息を立て、ぐっすりと眠っていた。
やはり「単細胞」は当てにならないようだ。わたしが「ふぅ」とため息をついた、その時、
ひゅ~~~…… ずど~~~ん!!!
突然、激しい炸裂音が響き渡り、大会議室がミシミシと揺れた。対策会議のメンバーからは悲鳴が上がり、帝国宰相が場を静めようとしたが、どうにもならなかった。
程なくして、
「大変です!! 何者かが魔法を使い、魔法アカデミーを、宮殿を、攻撃しています!!!」
地味な服を着た先刻の官吏が大慌てで、再び大会議室に転がり込んできた。




