平穏な日常
さて、これからしばらくの間は、特にすることはない。ドーンには密売人の取締りの強化を命じ、エルフ姉妹には不思議な植物の品種改良を頼んだので、その結果待ち。わたしが横から口や手を出しても邪魔になるだけだから。
というわけで、今回は、わたしの退屈な日常を少しだけ披露しよう。
朝は基本的に遅く、通常、9時前にプチドラに起こされて目が覚める。ぼんやりと寝ぼけ眼をこすりながら、ベッドで上半身だけ起こし、そのまま朝食。慣例的にエレンが朝食を持ってきてくれて、一言、
「おはよう。ご機嫌いかが? 子供たちの手前もあるから、学校が始まるまでにはシャキッとしてね」
カトリーナ学院初等部の授業は9時過ぎに始まり、午後2時には終わる。エレンは先生に向いているのか、子供たちをうまく手なずけたようで、学級運営はうまくいっている。長期的見ればプラスになるだろう。反対にうまくいっていないのは学院運営で、その原因は、早い話、金がないということ。
エレンは目を輝かせて語る。
「ゆくゆくは、高等教育もできるようにしたいし、科学アカデミーもできればと思うの。とりあえず、今はできるところから、魔法特待生制度ね」
魔法特待生制度とは、やはりエレンの発案で、優れた魔法の資質を持つ子供を集め、正規の授業の後に特別に居残り特訓させるというもの。メアリーやマリアが指導に当たっている。この二人なら人件費がかからなくていいけど、科学アカデミーまで作るとすれば、かなりの費用になりそうだ。
「それじゃ、これから授業なの。お食事は、どうぞ、ごゆっくり」
1時間近くの長い食事が終わると、わたしはお気に入りの群青色のメイド服に着替え、プチドラを抱いて執務室に向かう。とはいえ、実質的な仕事があるわけではない。たいていの事務はポット大臣が処理してくれるので、適当に書類にサインするだけで済む。
執務室に入り、しばらくすると、ポット大臣が書類を持ってやって来て、
「おはようございます、カトリーナ様。本日はこれとこれとこの書類に目を通していただき……、そして、午後は隣国の特使が来ますので……」
しつこいくらいにくどくどと、一日の予定を説明してくれる。
わたし的には日常の瑣事に興味はない。内心では、ポット大臣に政務をすべて任せておきたいところだけど、「君主が権力を家臣に丸投げするのは危険」と、古の賢人が本に書いていたから。
「わかったわ。これとこれとこの書類ね」
「左様でございます」
なお、プチドラは、その間、いつも退屈そうに机の上で寝転がっている。