天才的な復讐プラン
さしものツンドラ候も、ラードには歯が立たなかった。ラードはツンドラ候のパンチをかわして錫杖で一撃を加え、同時に、高圧電流(のようなもの?)を流し込んだのだろう。ツンドラ候は白目をむき、その場に崩れ落ちてしまった。
「ああ、ツンドラ候!」
わたしは思わず声を上げると、
「安心しろ、気絶しただけだ」
ラードは勝ち誇ったように、錫杖をわたしの咽もとに突きつけた。
店のオヤジはカウンターの向こうから、恐る恐る、
「あの~、申し訳ないのですが、喧嘩なら店の外でしていただけないかと……」
「ああ、そうだな。私だって喧嘩をしにきたわけではないのだがな」
「だったら、何をしに来たの?」
「ふっふっふっ…… おまえなんかに教えてやらねえよ。この私の天才的な復讐プランは、今や最終段階を迎えつつあるのだ。この忙しい時に、おまえに構っているヒマはないのさ。近々、この帝都はお祭りだ。空前の大フィーバーだぜ。おまえは、ただ、指をくわえて見ているがいい」
ラードはくるりと向きを変え、
「オヤジ、邪魔したな。また来るぜ」
そう言い残し、ラードは店を出た。
ラードのヤツ、「教えてやらねえ」と言いながら、調子に乗りすぎたのか、半分程度はタネを明かしてくれたような気もする。ヤツが嘘を言ってるのでなければ、近々、帝都で大事件が勃発して、それがすなわちラードの復讐ということだろう。
それに、ヤツは「商売させてもらっても構わないか」とも言っていた。それが「カオス・スペシャルを売っても構わないか」という意味なら、そのことから合理的に推理すれば、帝都をカオス・スペシャルの飽和状態にして、ゾンビ化による大混乱を引き起こそうと企んでいると結論できよう。
「うっ、うーん……」
その時、ツンドラ候が正気を取り戻し、巨体を起こした。
「なんだったんだ? あのハーフ・オークめは、どこへ行った?」
「ハーフ・オークですか? そのような者は知りませんが、侯爵、一体、何を? 」
「へっ? そうだっけ?」
「侯爵、ひょっとして、白昼夢でも御覧になったとか?」
「夢だったかなあ。夢にしては、妙にリアリティーが…… でも、まあ、いいか。どうでもいいことだ。考えてもしょうがない」
ツンドラ候は再びゲテモンをほおばり始めた。ラードのことをきかれたら面倒なところだったけど、ツンドラ候が常識的には有り得ないほどの「単細胞」だったから、助かった。それにつけても、「牛ブタ」という表現は、それなりに的を射ているのではないかと思ったりもする。




