来たのはヤツだった
しばらく待っていると、おそらくはこの店の自慢であろう、大皿に山盛りにされた怪しげな料理が次々と出されてきた。いくらゲテモンといっても、常識的にはワニ(爬虫類)とか食用ガエル(両生類)とかホルモン(臓物系)等々が中心になりそうなところ。でも、この店は、世間一般とは少し……いや、かなり趣が違っていた。
「うん、やっぱり、カンテツの串焼きは素晴らしいなぁ」
ツンドラ候がほおばっているのは、カンテツ呼ばれる牛の寄生虫の串焼き。「ゲテモン屋」と名乗るだけのことはあるが、こんなのを食べさせて大丈夫だろうか。一言で言うと、この店は、看板のとおり、本当に本物の「ゲテモン」を賞味してもらおうというコンセプトで成り立っているようだ。
「どうしたんだ? うまいぞ。食わないのか?」
「いえ、いただいています」
とは言ったものの、なんだか……いや、とても食べる気にならない。
わたしが必死の演技で食べているフリをしながらツンドラ候に付き合っていると、突如として店の戸が開き、
「よぉ、オヤジ、すまないな、ちょっと商売させてもらって構わないか?」
「ええ、どうぞ」
振り向くと、店に入ってきたのは、その名を口にしたくもない、前衛的・破滅的・超絶技巧的に拙劣な顔をしたハーフ・オークだった。
「あっ! あんた!!」
わたしは思わず立ち上がった。
すると、ヤツ、すなわちキム・ラードも、わたしを見て大いに驚き、
「げっ! きっ……貴様、生きておったか!!」
「あんたみたいな人間モドキに殺されはしないわよ」
わたしは思わずプチドラを抱き上げ、不本意だがラードとにらみ合った。場合によってはプチドラの火炎攻撃だ。
ところが、その一方では、
「どうしたんだ? 人が食っているのに、一体、なんの話だい??」
ツンドラ候には食事の方が重要らしい。口いっぱいにゲテモンを詰めこんで、ゆっくりと立ち上がった。
ラードはそれを見ると、ゲラゲラ笑い、
「なんだ、こやつは? 牛か? それともブタか? おまえも物好きだな。新生物の牛ブタでも飼っていたのか?」
「なにぃ!」
ツンドラ候は、口の中のものをゴクリと一気に飲み込むと、顔を真っ赤にして鬼のような形相になり、
「キサマが誰かは知らんが、この俺様を侮辱するやつは、とりあえずはぶっ殺してやる!」
拳を振り上げ、更に大音声を上げてラードに飛び掛っていった。ツンドラ候は巨体を活かし、渾身の力をこめた右ストレートでラードをKO……の、はずだった。
しかし…… KOされたのは、ツンドラ候だった。




