ゲテモン屋
帝都でカオス・スペシャルを直接目にするとは思わなかったけど、考えてみれば、それも不思議なことではない。しばらく前に、ミスティアG&Pブラザーズが大量のカオス・スペシャルの安売り攻勢をかけていたということだから、多分、その在庫が残っていたのだろう。あるいは、あまり想像したくはないけど、誰かが今でも混沌の領域でカオス・スペシャルを製造して帝都で売り捌いているということも……
ツンドラ侯は、考え込んでいるわたしを見ると、
「どうしたんだ? そんなに麻薬が珍しいのかい」
「いえ、ちょっと……」
「じゃあ、とにかく行こうぜ。店はすぐそこだ。俺様は、実は、さっきから腹が減って仕方がないのだ」
散乱したカオス・スペシャルの小袋をそのままに、わたしたちは先を急いだ。
しばらく進むと、「ゲテモン屋」という大きな看板とみすぼらしい小屋のような店が見えてきた。
「あの店だ。ネーミングセンスがすばらしいだろう。『ゲテモン』って、そのままのダイナミックな響きじゃないか」
と、ツンドラ候。一体、どういうセンスをしてるんだかよく分からないが、とにかく、迫力はある。
「さあ、入ろう」
ツンドラ候はわたしの手を取り(半ば引っ張るようにして)、入り口の戸を開けた。
すると、中からは威勢のよい声が響き、
「いらっしゃい! ああ、侯爵様だ。毎度、お世話になっております」
「おお、オヤジ、また来てやったぞ。今日もいつものフルコースを頼む」
ツンドラ候はカウンター席に腰掛けた。わたしはプチドラを机の上に乗せ、ツンドラ候の横に腰を下ろす。
店のオヤジは、少々いぶかしげな視線をわたしに送ると、
「侯爵様、連れの方は?」
「オヤジよ、余計な詮索はしないのがマナーというものだぞ。とりあえず、なんか食わせろ。さもなくば、そうだな、まず、おまえから食ってやる。マズそうだがな」
「ひぃ~、これはとんだご無礼を。失礼いたしました」
ツンドラ候が軽く吼えると、オヤジは恐縮して料理を作り始めた。正々堂々と「ゲテモン屋」を名乗るからには、なんとも形容のしようがないものすごいものが出てきそうな雰囲気。
客層も、店の名前に比例するように、浮浪者か、あるいは、いかがわしい職業の人か、怪しくて汚くて得体の知れない連中ばかり。テーブル席に座って横目でこちらを見ながら、陰気な顔つきでヒソヒソ話をしている。場違いな礼装で現れたのだから当たり前かもしれないけど、歓迎されている雰囲気ではない。
「オヤジ~、料理はまだかぁ~! 待ちくたびれたぞぉ~!!」
でも、ツンドラ候は、そんな雰囲気など気にならないようだ。




