対策会議が始まる
大会議室の指定された席に座って待っていると、続々とメンバーが到着した。知らない人ばかりだ。「意外にも」と言っては失礼だが、ツンドラ候は派閥の一方の雄だけあって、大会議室に入るや侯爵のもとに挨拶に来るメンバーが何人もいた。ツンドラ候は「この人はどこぞの公爵で、その人は、多分、魔法アカデミーで、こいつは……誰だっけ?」などと、説明のつもりだろうが、説明になっていない。「単細胞」だけのことはある。
やがて、議長の帝国宰相がドラゴニア候を伴い会議場に姿を見せた。議長の登場ということで、一応、全員起立して迎えた。ツンドラ候は面白くなさそうに顔をそむけ、
「あのヤロウ、勿体付けて最後に来やがったな!」
吐き捨てるように言った。もちろん、「あのヤロウ」とはドラゴニア候(すなわち御曹司)のこと。
会議は淡々とした流れで進んだ。まず、議長から、「現在住民がゾンビに変化する事件が続発しているが、しっかりその原因を究明して対策を講じ、民を安んじるのが我々の使命だ」との旨の挨拶があり、次に、対策会議の「事務局」から諸々の報告や今後のスケジュール等の説明があった。いつの間にか事務局ができていたらしい。そして、その後すぐに会議は終了。あっさりとしたものだ。
「……ん? もう終わったのか?」
うつむいていたツンドラ候は顔を上げた。
「はい。今、終わりました。初回は顔合わせだけで、続きは明日とのことです」
「そうか、残念だな。もっと続けてもらってもよかったのに。まだ眠いぞ」
こんな短い間でも、ツンドラ候は居眠りをしていたようだ。
大会議室を出ると、ツンドラ候は、
「さあ、会議も終わったことだし、どこかに出かけようぜ」
「そうですね。今日は天気もよさそうですから、ぜひとも名所旧跡を見て回りたいのですが」
この際だから、おねだりモードということで、ツンドラ候の馬車で念願の帝都観光地めぐりをしよう。
帝都には、歴代皇帝の偉業を記念するモニュメントの類が多数あった。どれもこれも優美で繊細な造りで、見ていて飽きない。帝都の大博物館には、帝国の勢力拡張期に侵略地域から略奪したと見られる品々が保管されていて、専門的なことは全く分からなくても、ミーハー的に感動を与えてくれる。
「こんなものが…… そんなに面白いのかなあ?」
ツンドラ候は退屈そうだ。既に何度も見たことがあるのかもしれないが、そもそも知性や教養とはまったく縁がないということもあろう。しばらくすると、ツンドラ候のおなかがグゥと悲鳴を上げた。
ツンドラ候は手を腹に当て、
「そろそろ昼飯にしようぜ。俺様のお気に入りの店に案内してやるから」




