大会議室
ドンチャン騒ぎの翌日は、いよいよ対策会議。会議は朝の早い時間、宮殿の隣、魔法アカデミー大会議室で行われることになっている。早起きは辛いけど、わたしは礼装して馬車に乗せてもらい、ツンドラ侯とともに魔法アカデミーに向かった。もちろん、プチドラも一緒。ツンドラ候は、昨日、大量に飲んでいたのに、今はピンピンしている。酒癖は悪そうだけど、次の日まで残らないらしい。
「さて、それでは行くか。どうせ、俺様には、何が何やらサッパリ分からない話だろうが」
ツンドラ候は、いつものように「単細胞」。うらやましいほどに幸せな性格だ。
馬車はツンドラ候の館を出て、きれいな石畳が敷き詰められた道をゆっくりと進む。有力諸侯の館は宮殿に近い帝都の一等地に位置しており、宮殿までの距離と諸侯の家格あるいは序列とは比例しているらしい。ツンドラ候によれば、館から宮殿までは10分もかからないというが、実際にかかった時間は20分近くだった。ツンドラ侯にも見栄はあるのだろう。
魔法アカデミーは、ひときわ目立つ巨大な塔を中心に多くの建物で構成されていて、敷地面積も広い。魔法アカデミーの門から正面玄関までは距離があり、到着するまでは多少の時間がかかる。
わたしは馬車の窓から間近に迫った巨大な塔を見上げ、
「魔法アカデミー大会議室って、どこにあるのかしら。塔の最上階にあれば、見晴らしもよさそうだけど」
「さあな。俺様は知らんぞ。でも、まあ、いいじゃないか。行ってみたら分かるだろう」
ツンドラ候は楽天的というかマイペースというか……
すると、プチドラがわたしの膝の上で立ち上がり、
「残念だけど、大会議室は塔の中じゃないよ」
「プチドラ、あなた、場所を知ってるの?」
「うん、エマと大会議室に入ったことが何度かあるから」
大会議室は、塔ではなく、付属する建物の中にあるらしい。ちなみに、塔は魔法アカデミーのシンボルだけど、日常的に使用されているわけではないという。
エマとは、今は亡きご隠居様すなわち先代ドラゴニア候のご先祖、帝国草創期に隻眼の黒龍を家来にして皇帝に仕えたという伝説のエルフのこと。プチドラがエマと一緒に大会議室ということは、その当時も隻眼の黒龍は子犬サイズのプチドラに体を縮めていたのだろうか。
馬車が正面玄関に着くと出迎えの者が待っていて、わたしたちは、迷路のような廊下を通って大会議室まで案内された。多分、わたし一人では、地図を見ながらでも、たどり着くことはできないだろう。
大会議室では机がロの字型に組まれ、30脚ほどの椅子が用意されていた。椅子の数だけメンバーがいるとすれば、政府の審議会くらいの規模だろう。こじんまりとした会議を予想していたけど、そうでもなさそうだ。既にメンバーは10人ほど到着しているようで、椅子に腰掛けたり立ち話したりしている。




