お約束のドンチャン騒ぎ
その夜、ツンドラ候の館では、例によってドンチャン騒ぎが始まった。豪華なテーブルには、北方から取り寄せた珍味がずらりと並ぶ。
「領地からここまでドラゴンに乗ってきたんだって? 結構、疲れたろ。大したものではないが、とりあえず、食ってくれ。酒もあるぞ。再会のめでたい席だ。何はともあれ、飲もうぜ!」
ツンドラ候は機嫌よく、自分で酒をついでガブ飲みしている。子犬サイズに体を縮めたプチドラは、酒樽に体を沈め、文字通り浴びるように飲んでいる。
「そういえば、ツンドラ候も対策会議のメンバーだそうですが」
「そのようだな。しかし、この俺様は自慢じゃないが、ゾンビ変化だの奇病だの、難しいことはサッパリ分からないのだ。一体、誰が俺様を選んだんだ? そいつの方が、よっぽどバカだぜ!」
ツンドラ候は豪快に笑う。人選は確かに、その通りだけど……
侯爵では話にならないので、執事を一人つかまえてきいてみた。彼の話によれば、対策会議の議員として選ばれる有力諸侯は、慣例上、派閥の勢力比で案分されていて、ツンドラ候は、帝国宰相とドラゴニア候に対抗する派閥の筆頭として、この手の会議では毎回選ばれているとのこと。
「さ~て、そろそろエンジンもかかってきたことだし、この前の続きだ!」
ツンドラ候はプチドラに勝負を申し込んだ。
「うん~、いいよ~~」
プチドラは酒樽から首を出して言った。乗り気のようだ。ツンドラ候は、椅子から立ち上がり、腕をグルグルと振り回す。ところが……
「侯爵様! それはちょっとお待ち下さい!!」
執事や召使が一斉にツンドラ候に飛び掛った。なんとかして押しとどめようとするのだろう。前回の勝負では、館にかなりの物的被害が発生していたから、なるほど、話は分かる。
「なっ! おまえら、下僕の分際で俺様に逆らうというのか。しかしそれは、許されんぞ」
ツンドラ候、さすがは2メートル30センチを越える巨漢に常識離れした怪力を誇るだけあって、執事や召使をちぎっては投げ、ちぎっては投げ。おそらく、通常一般人では、何人で掛かってもツンドラ候に太刀打ちできないだろう。
「あ、あの、ウェルシー伯様、あなた様からも、どうか、御力添えを! 侯爵を説得してください~」
執事はツンドラ候に強烈なパンチを食らい、フラフラになりながら、わたしに頼み込んだ。わたしとしても、当てにしていた宿舎が全壊してしまうのは困る。
そこで、わたしは侯爵に擦り寄り、
「まあまあ、ツンドラ候、勝負の機会は今日だけではありませんわ。それに、明日は対策会議ですし……」
「ああ、そうか、そうだな。どうせ俺様は居眠りしているだけだが、目の周りにあざでもできたら格好が悪いな」
ツンドラ候は再び椅子に腰を下ろした。どうやら、気は静まったらしい。




