二度目の帝都
帝都までは、隻眼の黒龍に乗って10日余り。今回も、はるか遠くから、宮殿の周囲に建てられた4本の尖塔と魔法アカデミーの塔が目に入り、それらは帝都に近づくにつれ、だんだんと大きくなっていった。物理法則を超越しているかのように、高さ300メートル以上という威容を誇っている。
「やっぱり、いつ見ても壮観ね」
「そうだね。実は、とってもえげつない話があるんだけど、聞く?」
「この前に来たときも、そんな話、してなかったっけ? えげつないなら遠慮しとくわ」
隻眼の黒龍は、聞かせたくてたまらないような雰囲気。少しばかり気にはなるけど、やっぱりやめておこう。聞けば後悔しそうな感じがして、なんだか気が進まない。
そして、宮殿の周囲の4本の尖塔と魔法アカデミーの塔を横目で見ながら、隻眼の黒龍が降り立ったのは、ツンドラ候の館の庭だった。
「マスター、ようやく到着だよ。一応、時間的には予定通り、明日が対策会議だね」
「そうね。ごくろうさま」
しばらくすると、身長2メートル30センチを越える大男が大きな剣を振り回し、館から飛び出してきた。
「ドラゴンめ! この俺様、『無敵のエドワード』の館に迷い込んだのが運のつきだ!!」
大きな怒鳴り声を上げて飛び掛ってきたのはツンドラ候。力自慢で、北方で広大な領地を治めている。
「ツンドラ候、お久しぶりでございます。元気そうで、なにより。」
わたしは地面に降りて、一応、型どおりに挨拶をした。
「えっ!? あっ、あれ!?」
ツンドラ候はわたしの姿を認めると、急停止しようと体を突っ張った。しかし、そのせいでバランスを崩し、大きな音を立てて倒れ、激しく顔を地面に打ちつけた。
ツンドラ候は、すぐに顔を押さえて立ち上がり、
「イタタ…… ドラゴンが舞い降りたって聞いたから、慌てて出てきたら、そうか、おまえだったのか」
「ツンドラ候も御存知のことと思いますが、この度、住民がゾンビに変化する奇病の対策会議で帝都まで呼ばれまして、そこで、まずは、いろいろとお世話になったツンドラ候に挨拶をしなければと思ったわけです」
「そうか、まずは俺様に挨拶か。うむ、悪い気はしないな。ところで、宿舎は決まってるのか? 決まってなければ俺様の館に泊まればいい。このドラゴンとは、この前の決着もつけたいしな」
「まあ、泊めていただけるのですか!? それは助かります!!!」
わたしは大袈裟に喜びを表現し、深々と頭を下げた。実は、公式なウェルシー伯の館や屋敷は帝都になく、対策会議が開かれている間の宿舎を確保する必要があったのだ。そこで、「単細胞」のツンドラ候に頼もうと思っていたのだけれど、頼まなくてもツンドラ候から言ってくれるとは、ラッキー。




