勅使来る
謁見の間では、プレートメールの上に赤いマントを羽織った勅使が待ち構えていた。「勅使」ともなると、メッセンジャーボーイの分際で立場はわたしより上だ。
「お待たせいたしました。ウェルシー伯カトリーナ・エマ・エリザベス・ブラッドウッドでございます。本日は本当にお日柄もよく……」
何を言っているのかよく分からないけど、一応、挨拶を。すると勅使は軽くうなずき、一通の書簡を示した。
「そなたも知っていよう。近頃、住民がゾンビに変化する奇病が広範囲にわたって多発しているということを」
「はい。そのようですね」
「その被害は日を追って拡大しており、帝国政府としては、このまま見過ごすわけにはいかぬ。そこで、対策会議を設け、対策を講じようということになったわけだ」
わたしは、内心、ぎくり。でも、まったく色には出さず、
「わが領内でも被害は確認されています。至急、対策を立てる必要があるとは思いますが……」
「ウェルシー伯よ、その対策会議のメンバーに、そなたも選ばれたのだ。詳細はこの書状に書いてあるから、よく読んで期日には参集するように」
なんだか妙な話になってきた。断ることはできないだろうから、社交辞令も兼ねて「謹んでお受けします」と書簡を受け取ると、勅使は満足したようにうなずいた。そして、お約束のいわゆる「接待」を受けた後、グリフィンに乗って帰っていった。
勅使が残していった書簡によれば、対策会議は帝国宰相を議長として帝都で開催されるとのこと。会議のメンバーは、帝国宰相をはじめとする帝国の首脳部のほか、有力諸侯の代表として、ドラゴニア候やツンドラ候など。わたしは被害地域の代表格として選ばれていた。
「カトリーナ様、これは一体……」
ポット大臣は青白い顔でわたしを凝視していた。本能的にヤバそうな気配を察知したのだろうか。
「会議に出席しなさいというだけでしょ。大した話じゃないわ」
「だったらいいのですが……」
ポット大臣は、わたしがカオス・スペシャルを販売していたことを知っているが、ゾンビ化の原因がカオス・スペシャルにあることを知らない。もし、それを知れば、卒倒するに違いない。
対策会議を設けるとは、帝国も、そろそろ本腰を入れて調査を始めようということだろう。それだけゾンビ化の被害が拡大しているということでもある。
「マスター……」
事情を知っているプチドラも心配そうにわたしを見上げた。帝国宰相が乗り出してくるならば油断はできない。ただ、カオス・スペシャル生産地帯は、おそらくラードの差し金で混沌の勢力に占領されているし、デスマッチは抗争中で他に構っている余裕はない。証拠物件も証人もなしという状況だから、すぐにバレる心配はないはず……




