一か八かのデスマッチ
その後、ゾンビ化の勢いは、帝国西部のG&Pブラザーズの縄張りを中心に加速していった。ゾンビの大群がスラム街から市街地まで押し寄せ、住民や通行人を襲撃する事件も頻発するようになった。中には領主がゾンビ化した事件もあったとか。
ただ、ゾンビ化事件の一連の流れの中で、一番の被害を被ったのはデスマッチだと思う。カオス・スペシャルの販売により勢力を拡大し、古くからの大勢力「カバの口」と裏の世界の覇権を争うまでなっていたのに、現在、カオス・スペシャルの生産は不可能な状態にある。せっかく支配下に置いたシーフ・ギルドも、カオス・スペシャルの供給停止やそれに伴う現金収入の減少により、やがて離反していくだろう。おそらくこのままではジリ貧、カバの口との抗争にも耐えられまい。
「カトリーナ様、G&Pブラザーズはカバの口に対して、何を思ったのか、大規模な攻勢に出たとのことです」
報告に訪れたドーンが言った。G&Pブラザーズの調査は以前から継続している。G&Pブラザーズは傘下のシーフ・ギルドを総動員し、カバの口やマーチャント商会非合法取引部門への攻撃を開始したとのこと。デスマッチも追い詰められて、一か八かの勝負に出たということだろうか。攻撃は最大の防御、守りに入るよりは賢明な選択だろう。
ラードの行方は杳として知れない。この前に見たのは混沌の領域。今もそこにいるのか、別のところに移動しているのかは分からない。調べるといっても、広い帝国内をくまなく捜すのは不可能に近い。どこかで事件を起こしてくれれば分かりやすいのだが……
状況が悪化の一途をたどっていく、そんなある日のこと、
「カトリーナ様、大変です!」
珍しくポット大臣が息を切らせて執務室に駆け込んできた。
「どうしたの? そんなに慌てて」
「勅使です! 皇帝陛下の使者が!!」
ポット大臣によれば、プレートメールの上に赤いマントを羽織った男、すなわち勅使が、顔のある太陽が描かれた旗を持ち、グリフィンに乗って現れたとのこと。
「勅使ですって? だったら、会わないわけにはいかないわね」
わたしはプチドラを抱き、最近使っていない謁見の間に向かおうとした。
すると、ポット大臣はあたふたとして、
「ダメです! そんな格好で勅使に前にでるなんて、とんでもない!!」
「えっ? ああ、そうね」
今のわたしは、お気に入りの群青色のメイド服だった。さすがにメイド服で勅使を迎えるのは非礼だろう。わたしは礼装に着替えてプチドラを抱き、ポット大臣とともに謁見の間に向かった。




