キム・ラードの行方
レオ・ザ・デスマッチは右手にハンドアックス、左手にメイスのファイティングポーズを取り、一歩、また一歩と、徐々に距離を詰めてきた。メアリーはわたしを守るべく、デスマッチの進路をふさぐ形で槍を構える。なお、今までいつもデスマッチと一緒にいたキム・ラードの姿はない。
わたしはおもむろにデスマッチの前に進み出て、
「デスマッチ社長、今日は損害賠償の取立てに来たの。まずは、専務キム・ラードを引き渡してもらうわ」
「損害賠償? ラード? なんのことだ?」
デスマッチは顔をしかめ、舌打ちした。なんだか、いつもと違って余裕がなさそうに見える。
「とぼけないで。ラードが混沌の住人をそそのかして、カオス・スペシャルの生産地帯を不法占拠しちゃったのよ。おかげで生産はストップ、当分、再開の見込みはないわ。G&Pブラザーズに賠償請求する前に、まずラードを八つ裂きにしないと、部下に示しがつかないの。あなたが認めないなら、実力行使あるのみ」
「そうかい。しかし、その事実が真実であるとしても、証明はできるのかね?」
「判決書は帰ってから書くわ。証拠は揃ってるしね。でも、執行は、今すぐこの場で行うから」
領主の裁判権が領外のG&Pブラザーズに効力を及ぼすかどうかという理論的な問題はさておき、とりあえず交渉事は気合がものをいう。戦闘になってもプチドラとエルフ姉妹がいれば負けないだろう。状況は絶対的に有利。
デスマッチは目を伏せてじっと考えていたが、しばらくすると顔を上げ、
「うむ、『分かった』と言ってもいいが、それは不可能だ。ただ、ここで話すのはマズイな」
わたしたちは社長室に案内された。デスマッチは「ふぅ」とため息をついてソファに腰掛け、
「最初に言っておく。ラードが何をしたか知らないが、そのこととG&Pブラザーズは一切関係がない。正直な話、ラードが行方不明になったので、我々も秘密裏にヤツを探しているところなんだ」
「いなくなったって、いつ?」
「前回のカオス・スペシャルの代金支払いに、ヤツは出向かなかっただろう。その頃にはね。『忽然と姿を消す』というやつだ」
「そうだったの、それで、あの若くて弱々しいサラリーマン風の人が来たのね。でも、その話はウソじゃないわよね」
「ああ、人聞きのいい話じゃないから、箝口令は敷いておいたがな」
話しぶりや顔つきからすると、ウソではなさそうだ。でも、念のため、
「もう一度きくけど、本当に本当? どこかにかくまってるんじゃないでしょうね」
すると、デスマッチはあきれ顔で、
「疑り深いお姫様だな。分かったよ。信用できないなら、家捜ししても構わんぞ!」
「だったら、そうさせてもらうわ」
すると、デスマッチは、一瞬、「しまった」と渋い顔。デスマッチともあろう者が、うっかり失言らしい。でも、その意味は? 本当はラードを隠しているのだろうか、あるいは、それとは別に、見られるとマズイものが?




