作業現場にて
門に近づくと、当然のように、門番がわたしを呼び止めた。そして、「何者だ」、「主君の顔を忘れたか」、「僭称者め、いい加減なことを言うな」、「あんたじゃ話にならん、責任者を呼べ」などと一悶着起こったけど、その話は省略しよう。テレビやネットがない世界だから、直接顔を合わせなければ知らないのも無理はない。ともかくも、わたしは、あわてて駆けつけた猟犬隊幹部でもある収容所長の案内で、事務所の応接室に案内された。
収容所長はおずおずと、
「先ほどは部下が大変な失礼をいたしまして……」
「仕事熱心なのはいいことよ。これからも忠勤に励むよう言っておきなさい」
「恐れ入ります。ところで、カトリーナ様、今日はこのようなところにどのような御用件で?」
「復興の進み具合を直接見ておこうと思ってね」
「分かりました。では、このわたくしめが案内いたします」
収容所長の顔がパッと明るくなった。処罰を恐れていたのか得点を稼ぎたくなったのかその両方か知らないけど、収容所長は今までの自信なさげな態度がウソのように、元気よく部下に指示を出している。
「お待たせしました。では、これから案内いたします。まずは、これを……」
準備が整ったようだ。なお、収容所長から手渡されたのは、ヘルメットではなく新品の鉄兜だった。
「御覧下さい、カトリーナ様」
作業場では、地面に石畳を敷き詰めたりレンガを組み上げたりして、道路や住宅を建設している最中だった。オークやゴブリンやホブゴブリンが蹴られてもムチでしばかれても文句一つ言わず、黙々と作業を続けている。
「奴隷の分際で熱心に働いてるようね。安心したわ」
「はい、使い捨てを前提として、労働生産性を最大限引き出すようにしていますから。実は、そのために秘策といますか、とある方法を用いているのですが……」
「方法って?」
「実は、これでございまして……」
収容所長はポケットから見慣れない植物を取り出すと、時代劇に出てくる悪徳商人のような顔になった。
「この植物をすりつぶして混沌の奴隷どものエサに混ぜ込んでおくのです。そうすると奴隷どもは、いい意味で、ちょっとした興奮状態になり、作業に積極的に取り組むようになるのです。痛みをあまり感じなくなるようで、文字通りの意味でボロボロに擦り切れるまで働き続けるのです。非常に便利なもので、重宝しております」
「ふ~ん、そうなの……」
わたしは、内心、ニヤリとしながら、何食わぬ顔をして、
「面白いわね。せっかくだから、その植物、何株か鉢植えにしてくれない? お土産にするわ」
「お安い御用です。帰りにお渡しできるよう、用意しておきます」
収容所長は言った。わたしは、内心、ガッツポーズ。来てみてよかった、みたいな……