表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ☆旅行記Ⅳ カオス・スペシャル  作者: 小宮登志子
第6章 ハーフ・オークの恨みは深く
56/87

前線にて

 館を出発し、宝石産出地帯を越えて前線までの空の旅は、急いでおよそ数時間。到着したときには、辺りはすっかり暗くなっていた。

 いきなり何の前触れもなく現れたものだから、現地の司令官は夕食を中断し、大慌てでブリーフィングの用意を始めている。その人、なんだか見覚えのある顔だと思ったら、

「カトリーナ様、以前、収容所を視察された時以来でございますが、今回は我々がふがいないばかりに……」

 司令官は、宝石産出地帯の収容所長だった。

「謝る必要はないけど、敗戦の理由だけは聞いておきたいわ」

「それはつまり、いきなり敵の大軍に不意を打たれまして、反撃できなかったことが一つ。そして、もう一つは、やつら、なんだかおかしいと言いますか、気味が悪いと言いますか、異常なほど…いえ、あり得ないほどに士気が高いのです」

「士気が高い? あり得ないって、それ、どういうこと?」

「いえ、その……つまり、斬りつけて傷を負わせても、痛みを感じていないかのように反撃してきたり、前の者が倒れると、その後ろの者がすぐに死体を踏み越えて攻撃してきます。やつら、感覚や恐怖心などが麻痺しているようで、隊員たちは『狂人を相手にしているようだ』と、正直、ビビッています」

 詰まるところ、混沌の領域に駐留していた部隊も、救援に駆けつけた宝石産出地帯の守備隊も、混沌の勢力の勢いに抗することができず大幅に後退を余儀なくされ、どうにかこの地で部隊を結集して態勢の立て直しを図ることにしているという。


 現況説明を受けた後、わたしは遅い夕食を食べ、プチドラを抱いて専用の野営用テントに向かった。たった今、急きょ設営されたそうだ。お風呂がないし、野営用のベッドは硬くて寝心地がよくなさそうだけど、贅沢は言ってられない。

 わたしはベッドにドスンと腰を下ろすと、思わず、

「いたた…… やっぱり硬いわ」

「仕方がないよ、マスター。それはそれとして、さっき、司令官が言ってた、『異常なほどに士気が高い』という話だけど……」

 プチドラはわたしの膝の上に飛び乗って言った。膝はベッドよりも柔らかいだろう。

「うん、なんだか変よね。変というより、異常というか…… ただ、どんな手品を使ったのか、大方、想像がつくけどね」

「そうだね。きっと、カオス・スペシャルを使ったんだよ。一時的に麻薬でラリって一気に攻め寄せたと思う」

 すなわち、こちらが開発したカオス・スペシャルを、敵方にうまく活用されたというわけだ。混沌の分際にもかかわらず、意外と知恵のあるやつがいるらしい。

 わたしはプチドラをギュッと抱きしめ、

「油断していると危ないかもね。いつものことだけど、今回もプチドラ、頼むわ」

「く、くるしい……(ムギュッ!!)……」

「あら、ごめん。大丈夫?」

 わたしとしたことが、力をいれすぎたらしい。

 今日は、あまりゆっくりとできそうにないが、とりあえず休み、明日の朝から付近一帯を偵察することにしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ