ラードはどうした
わたしはプチドラを金貨の袋から引っ張り出して片手で抱き上げ、もう一方の手で使者の腕を取った。そして、ポット大臣に高級酒を持ってくるように命じ、執務室を出て、男を応接用の部屋に引っ張り込んだ。
ドーンは、大きく目を見開いて「アババババ」と口をパクパクさせ、
「あ……あの、カトリーナ様、一体、どうするおつもりで???」
「外交使節をもてなすのも領主の任務でしょ。あなたはとりあえず、部屋の外で待機。必要な時に呼ぶから」
ドーンはまだ何か言いたそうだったけど、わたしは構わずドアを閉めた。使者はいぶかしげに周りを見回しているが、よく見てみると、若くて弱々しいサラリーマン風、与しやすそうなタイプだ。
高級酒が届くと、わたしはプチドラに耳打ちしてその男に金縛りの術をかけてもらい、「とりあえず一気飲み」と、高級酒を男の口に流し込んだ。そして、回りが早くなるよう、体をオラオラと激しく揺すぶった。これは、すなわち、酔っ払わせて判断力を鈍らせ、話の流れの中で必要な情報を聞き出すという、ごくありきたりの手段。
ところが、その結果は…… 使者にすり寄っていろいろと聞いてみたものの、使者は真っ赤な顔をして、「実は私、この組織に入ったばかりで、本当に何も知らないんです」と、繰り返すばかりだった。いつも代金の支払いに訪れるラードがどうしたのか尋ねても、「ここ最近、本社で姿を見かけませんが、専務の予定までは分かりません」とのこと。
「やっぱり、こいつ、単なる使い走りだったみたいね。せっかくの高級酒を無駄にしてしまったわ。代金を請求しようかしら」
使者は目を回し、わたしの足下にひっくり返っている。軽く蹴飛ばしてみても反応がない。
チッと舌打ちしてドアを開けると、外では、ドーンがせわしなくドアの前を行ったり来たりしていた。
「ああ、カトリーナ様、ご無事でしたか。よかった。ほっとしました。」
「一体、どんな想像してたの? まあ、別に、いいけど……」
その男が本当に何も知らなかったのか、知らないフリをしていたのかは分からない。ただ、感触としては、本当に何も知らない可能性の方が高そうだ。何らかの事情でラードが来られなくなって、代わりに、忠実で正直な部下をよこしたということだろう。
「ラードのやつ、きっと、積もり積もった不祥事がバレて、解任されたか解雇されたんですよ」
ドーンは常にプラス思考、単純に、こちらの都合の好いように考えて喜んでいる。
「でも、単に来られないだけかもしれないわ。G&Pブラザーズは帝都でカバの口と対立しているから、例えば、ラードが帝都で陣頭指揮を執っているのかも」
「いえ、カトリーナ様、それはないと思います。我々の調べでは、G&Pブラザーズから帝都に派遣された者の中で、ハーフ・オークは確認されていません」
だったら、これはどういうことだろう。まあ、ラードがどうなろうと、わたしの知ったことではないが。




