喧嘩別れの後
ラードは錫杖を構え、「フッフッフッ」と、ゆっくりと窓際まで後退し、
「くそったれめ! 今日のところは引き揚げるが、いずれ、私を怒らせたことを後悔させてやるぞ!! 必ずだ!!!」
と、捨て台詞を残し、錫杖にまたがって飛び去った。
ともあれ、これでとりあえずはひと安心。
「ありがとう、マリア、メアリー、助かったわ」
「助かったけど、マスター、いくらなんでも、さっきのアレは、言いすぎ」
と、プチドラが、一言、チクリ。分かってはいるけど、あの場は勢いで、どうにも止まらないところ。結果オーライということで、今後は気をつけよう。
こうして、一件落着したところで、
「アイタタタ…… くそっ! ハーフ・オークめが!」
ドーンが頭を押さえて起き上がった。今頃になって気がついても遅いのだが……
「ラードなら、さっき帰ったわよ」
「はい? ああ、カトリーナ様、どうしてここに? それに、エルフ姉妹?? あっ、あれ???」
ドーンは目を白黒させるばかりだった。
その後、理由はともあれ取引先の重役と喧嘩して殺し合いになりかけたのだから、普通なら取引の打切りを通告されても仕方がないところだが、G&Pブラザーズからは、反対に(どういうわけか)、カオス・スペシャルの供給量をさらに増加してほしいとの要望書が届けられた。この前に情報が社長まで上がらなかったこともあるし、ラードは今回の一件もデスマッチに報告しなかったのだろうか(一番怒っているのはラードのはずだが)。
わたしは要望書を読みながら、
「でも、これだけ大量にカオス・スペシャルを買い込んで、どうするつもりだろう」
G&Pブラザーズの要望は、「カオス・スペシャルの供給量を一気に3倍にしてほしい、それが無理でも、できる限り大量に、最大限の努力をお願いしたい」という、途方もないものだった。
「聞くところによると、やつらの『帝都決戦』の一環だとかで、要するに、帝都における麻薬のシェアをカバの口から奪うため、多少の損失は覚悟でカオス・スペシャルの安売り攻勢をかけるということです」
と、ドーン。猟犬隊によるG&Pブラザーズの動向調査は継続しており、その報告によると、最近では帝都でG&Pブラザーズとカバの口の対立・抗争事件も頻発しているらしい。
「もう一度、エルフ姉妹と魔法科の生徒に成長促進魔法合宿コースを頼もうかな」
「マスター、もうそろそろ、止めにしないとマズくない? 『帝都決戦』なんかしてると、帝都でゾンビが大発生するかもしれないし」
プチドラは机の上から心配そうにわたしを見上げた。マズいのは分かるけど、
「それじゃ、これで最後にしましょう。この出荷が終わったら、取引は縮小する方向で考えるから」
冷静に考えればプチドラの言うことが正しいと思う。でも、現ナマの魅力は、本当に、相当なもので、どうにも抵抗しようがなく……




