形勢はいかに
ラードはジャンクされたみたいな顔に、品性のかけらもない薄笑いを浮かべ、
「考え直すなら今のうちだぞ。タダでは済まないことは違いないが、今なら特別にサービスしてやろう」
わたしは言葉を返すことなく、「たのむわ」とばかりに、プチドラの尻尾を軽く引っ張った。プチドラは「うん」とうなずき、口を大きく開けてドッジボール大の火の球をうち出す。
「げっ!」
火の球はピンポイントにラードの顔面に命中し、激しい魔法の炎がその体を包んだ。ラードは苦しげに炎の中でもがきながら、何歩か後ずさった。「大口をたたいていた割に、意外とあっけないヤツ」と思ったその時、
「こっ、この! 小娘が!!」
ラードは錫杖で床を突き、口をモゴモゴと動かした。すると、何かの魔法なのだろうか、不思議なことに、ラードを包んでいた炎は一瞬にして消えてなくなってしまった。ラードは体勢を立て直し、
「なかなか味なことを…… しか~し、この私を怒らせて、今まで無事だったヤツは、一人もいないのだ!」
ところが、ラードが吠えたその時、執務室のドアがさっと開き、
「今まではそうでも、これから先は、どうかしら?」
入ってきたのは、銀色の髪と透き通るような白い肌が美しいエルフ妹、マリアだった。
「あら、マリア、あなた……」
「ドタバタと騒々しかったので、事件かと思いまして…… 来てみれば、びっくりでした。ほんと、ひどい顔ですこと……」
マリアはクスクスと口元を押さえて笑い出した。マリアにはラードの顔は見えていないはずだけど、「ひどい顔」はハーフ・オークの枕詞だろうか。ともあれ、これだけあからさまにおちょくられたとあっては、当然のように、ラードは怒り心頭、
「許さんぞ、おまえら! 二人と一匹、まとめて地獄に送ってやるわ!!」
と、ドスドスと錫杖で激しく床を突いた。
するとその時、今度はガチャンと大きな音を立てて、館の外から執務室の窓を突き破り、
「残念ながら、二人ではありません。あしからず……」
銀色の髪をなびかせ、槍に横向きに腰掛けたメアリーが、ラードの前に立ち塞がった。
「あら、メアリー、あなた、魔法科の授業中じゃなかった?」
「妹から緊急の通信が入りましたので、授業は自習にしました」
エルフ姉妹は、離れていても、テレパシーのように心の中で会話できるらしい。異変を察知したマリアが、メアリーにいわゆる「電波」を送り、緊急に応援を要請したのだという。
こうなれば、実質3対1、こちらが圧倒的に有利になったわけだ。どうする、キム・ラード。




