気分転換
カトリーナ学院(故ゴールドマン騎士団長の館)の門をくぐると、大きな庭園が広がっていた。手入れは行き届いているようだ。噴水や花壇など、館の中庭よりも立派な感じがするが、気のせいだろうか。その向こうには、2階建てでレンガ造りの校舎が威容を見せつけている。そして、その校舎の前では、
「ここはこうして、え~っと…… 説明は難しいのだけれど、こうするの」
メアリーが魔法科の5人の生徒に魔法の実技指導をしているところだった。メアリーが槍に横向きに腰掛け、そのまま静かに空中に浮かび上がると、魔法科の生徒は練習用の魔法の杖を使い、同じように垂直上昇と空中停止を試みている。メアリーほどうまくはないが、それでも人の背丈程度の高さまで達することができるようだ。
なかなかうまいものだ。わたしは拍手を送りながら、
「すごい。この調子なら、そのうち、魔法戦隊が編成できるわ」
するとメアリーは、さっとわたしの前に舞い降り、
「カトリーナ様、よくぞいらっしゃいました。子供たちは、日に日に魔法の腕を上げています。ただ、魔法戦隊は、ちょっと…… それに、今の段階ではまだ早すぎますし」
メアリーは気乗りがしない様子。魔法戦隊は、生徒たちの腕前がもっと上達してから考えることにしよう。
校舎の中は、高級な敷石や絨毯、調度品・工芸品等、やはり舘より立派な感じがする。情操教育の一環として、美しいものを子供に見せることは、一応、理に適ってはいるが、なんというか……
わたしがプチドラを抱いて校舎内を散策していると、ふと、気がついたことがあって、
「でも、空き部屋が多いわね。建物が大きすぎたかしら」
「そうだね。ただ、これから先、高等教育や科学アカデミーを併設するみたいなことを言い出したら、これでもスペースが足りなくなるかもしれないよ」
そういえば、エレンがこの前にそんなことを言ってたような…… ただ、どこまでできるか分からないけど。
さらに校舎内をふらふらと歩いていくと、やがて、廊下の先の方に見覚えのある影が見えた。こちらに近づいてくるようだ。よく見ると、それは、書類や荷物を抱えて駆けてくるエレンだった。
「あら、エレン、こんなところで、どうしたの?」
「ああ、カトリーナさん」
話によれば、このところ、授業はすべて新任の教師に任せ、自分は責任者として全体を統括する仕事をしているので、何が忙しいのか分からないけど、とにかく忙しくなったとのこと。どんな仕事をしていても、エラくなると同じようなものらしい。エレンは早口で説明を終えると、再び書類等を抱えて駆け出した。
ともあれ、動き回っていると、多少の気分転換にはなった。そろそろ、館に戻ることにしよう。




