G&Pブラザーズの動向
ゾンビ化の一件後も、カオス・スペシャルの出荷は続いた。危ないのは分かっているが、急に出荷を停止してもあらぬ憶測を招くだけだから。破滅に至るか踏みとどまれるかはギャンブルだけど、ここで終わるようなら、運がなかったと諦めるしかないだろう。ドーンに、近隣諸国におけるゾンビ化事例の有無を調査するよう命じたのは、言うまでもない。
なお、ドーンの「G&Pブラザーズギルド員のゾンビ化に関する報告書」は、役人的にはよくできていると思う。でも、これ以上に危険な証拠はなく(わたしが関与しているのがバレバレ)、そのうち処分しなければならない。とはいえ、すぐに破り捨てないのが元公務員の習性で(その意味で、ドーンのことをバカモノとは言えまい)、分かっていても、なかなか……
ただ、このところのカオス・スペシャルの売れ行きは、すこぶる順調。なんだか気持ちが悪いけど、一応、喜ばしいことには違いない。
わたしが複雑な気分で帳簿を眺めていると、ドーンが現れ、
「カトリーナ様、例の件ですが……」
「例の件?」
「G&Pブラザーズの動向のことですよ。加えて、ゾンビ化事例に関することもありますが」
「ああ、そのことね、ありがとう。で、どうだった?」
ゾンビ化の一件があって、G&Pブラザーズの動向調査を命じたことなどすっかり忘れていたが、ドーンの話によれば、ミスティアG&Pブラザーズは全国的な巨大組織にのし上がりつつあるとのこと。G&Pブラザーズは、カオス・スペシャルの販売により巨額の利益を得、その資金力を背景に、近隣の町のシーフ・ギルドへの侵略行為を開始したそうだ。「降参して傘下に入るならよし、刃向かうなら実力行使で無理矢理併合」という、非常に分かりやすい戦略を採ったらしい。
こうしてG&Pブラザーズは支配地域を広げ、今では帝国の西部において裏の世界の約4分の1を支配し、カオス・スペシャルの販売網は帝都を含む帝国全土の約半分の地域に拡大しているとか。これほど大きくなっているなんて、理由はないけど、なんだかむかつく。
わたしは、つい、ドーンの報告書を丸めて床にたたきつけ、
「あいつら、たかが盗人の分際で!!」
ドーンとプチドラは驚いたのか、ギョッと跳び上がった。ゾンビ化の一件以来、精神的に疲れ気味かもしれない。普通なら、これほど意味もなく感情を露わにすることはないのだが……
「まあまあ、カトリーナ様、あいつらも日の出の勢いというほどではなく、本番はこれからといいますか、いわゆる、これからがその正念場というやつですよ」
ドーンはなだめるように言った。急速に勢力を拡大したG&Pブラザーズに対し、古くからの大勢力「カバの口」や、旧来の麻薬の独占的卸売業者マーチャント商会非合法取引部門が巻き返しを図り、互いに支配地域の拡大のために血で血を洗う抗争を始めたとのことだ。
なお、ゾンビ化の事例については、現時点では他に確認されていないということだけど、時間の問題だろう。




