焼却処分
ドーンは落ち着きなく、細い通路を行ったり来たりしながら、
「でも、どうして、ゾンビ化するんでしょう」
「カオス・スペシャルに毒素が含まれていて、その毒素が体内に蓄積されていくんじゃないかな。それで、毒素が一定量たまれば、発症してゾンビ化するみたいな…… 想像だけどね」
「なるほど。でも、もともとこれは、混沌の領域でゴブリンやオークにとっての麻薬だったそうですが、やつらがゾンビ化するような話は聞いたことが……」
「種族が違うからでしょう。ヒューマンにとっては毒でも、ゴブリンやオークにとっては無害かもしれないわ。それに、カオス・スペシャルを開発する際、品種改良でかなり手を加えたから、その過程で、遺伝子レベルで致命的に危険なものに変異したのかもしれない」
発症のメカニズムは分からないが、言えることとして、とにかくカオス・スペシャルはヤバイ。そこで、ドーンには、領内でのカオス・スペシャルを含む麻薬取締の徹底を命じた。プチドラには、
「ゾンビを焼却処分するのよ。燃え尽きて、灰になるまでね」
「なんだかな~ でも、了解、マスター」
プチドラは独房の前に立ち、外からゾンビを一体ずつ猛烈な炎で処理していった。独房の鉄格子さえ溶解するほどの火力で、ゾンビはすぐに真っ黒な炭の塊となった。
こうして処分が終わったところで、ひと言、
「誰がなんと言おうと、G&Pブラザーズのギルド員がゾンビ化したという事実は存在しない。いいわね」
わたしはプチドラを抱き、「困った、困った」とぼやきながら執務室に戻った。今回の「困った」は、半分……いや、かなり本気。ゾンビ化は、いずれ、ミスティアの町のほか、カオス・スペシャルが販売されている地域でも発生するだろう。スラム街のルンペンがゾンビ化する程度なら、どうということはない。でも、もしかして、カオス・スペシャルが都市の富裕層や貴族階級まで広まっていて、彼らもゾンビ化するようなことがあれば、帝国宰相が調査に乗り出すかもしれない。
プチドラは、小さい腕を組んで「う~ん」とうなり、
「マスター、どうするの? 対応を間違えれば、そこでジ・エンドかもしれないよ」
「今更、出荷を中止するわけにはいかないわ。デスマッチたちに怪しまれそうだし。でも、最悪、製造元がわたしということが世間一般にバレた時には、言い逃れはできない。そうなる前に、なんとかして、G&Pブラザーズに全責任を負ってもらう方向に持っていかないと……」
そうは言ってみたものの、責任をなすりつける良い知恵があるわけではない。
その時、ドーンが現れ、
「カトリーナ様、報告書を持ってまいりました」
「報告書?」
「今回の一件をまとめたものです。ゾンビ化のことと、その原因の考察を。もちろん、極秘です」
「あの、ドーン……」
わたしは「バカモノ!」と叫びそうになった。既にわたしが知っていることを報告書にする意味はないし、都合の悪い記録まで残そうとするなんて……




