びっくりの正体は
「どうしたのよ。いつものあなたらしくないわね」
「そっ、それが…… とにかく、説明するよりも、見ていただく方が早く……」
それほど豪胆な性格とはいえないドーンだけど、この驚きようは、尋常ではない。ドーンは震える手で、わたしの手を引いた。プチドラはピョンと小さくジャンプ、わたしの肩に飛び乗った。
そして、わたしたちはバタバタと階段を下り、たどりついた先は、館の地下牢だった。
「地下牢って…… そういえば、この館にもあったのよね。すっかり忘れてたけど」
「カトリーナ様、そんな呑気なことを言ってる場合じゃありません。どうぞ、こちらへ!」
ドーンはわたしを独房が密集している区画まで案内し、
「これです。一体、どういうわけなのか…… とにかく、何が何やら……」
「これって?」
細い通路を挟んで両側に設けられた独房の中にいたのは、動く腐乱死体、すなわちゾンビだった。
ゾンビは独房の中で言葉にならない声を上げ、猛り狂っていた。耐え難い腐臭が鼻を突く。
「ドーン、これ、なんなの? え~っと、ゾンビは分かってるからね。モンスターとして現れる分には、それほど驚かないけど…… どうしてゾンビが独房にいるの?」
「こいつら、麻薬の密売で逮捕したG&Pブラザーズのギルド員なんですよ!」
ドーンによれば、昨日までは廃人状態であったが人間としての外観をとどめていた(ただ、毛が抜けたり肌がドス黒く変色したり、極めて不健康・病的な様子だった)ギルド員が、今日、いつものようにカオス・スペシャルを食事に混ぜて持ってきたところ、なぜだか突然、皮膚が腐りハエが群がるゾンビの姿に変わり果てていたとか。
「どうしてこうなったのか、皆目見当もつかず……」
ドーンは、わけが分からずうろたえるばかりだった。いきなり超自然現象を目の当たりにしたのだから無理はない。でも、とにかく冷静になって、状況を分析しなければならない。考えられるのは、地下牢に病原体がいて、感染するとゾンビ化するということだけど、以前、「皇帝の騎士」カニング氏が地下牢に入れられても変化がなかったことから考えれば、その可能性は低い。そうすると、やっぱり……
「カオス・スペシャルが原因かな。常識的には、それ以外に考えにくいわ」
「えっ!? カオス・スペシャルですか。カトリーナ様、それはまた、どうして?」
「これまで毎日、人体実験……じゃなかった、臨床試験として、G&Pブラザーズのギルド員にカオス・スペシャルを与え続けてきたんでしょ」
「はい、確かにその通りですが」
「他に原因が考えられないなら、カオス・スペシャルがゾンビ化の原因と考えるべきでしょう」
と、いうわけで、諸々の意味で、非常にマズいことになってしまった。




