事件勃発か
親衛隊が発足し、館はクッキリと赤い集団と黒い集団に色分けされた。親衛隊の規模は総勢100人と少し。エルフ姉妹とメアリー配下の精鋭に加え、若干名の兵士を新たに雇い入れた。当然のように、親衛隊と猟犬隊の仲はよろしくなく、町の酒場で酔っ払って喧嘩を始めることもあった。ドーンもやはり快く思っていないようで、報告の際などに「ブ~」とうなり声を上げることが多くなった。
「親衛隊を編成したのがそんなに不満なの?」
「いえ、そういうわけではないのですが、その、なんといいますか……」
ドーンはうつむき加減で言った。なんとなく気分が乗ってなさそうな、「ブー」と言いたいのを我慢しているような雰囲気。
わたしはドーンをつかまえて、グッとこちらに引き寄せ、
「親衛隊ができたからって、猟犬隊の重要性は変わらないわ。むしろ、今後は諜報活動や特殊任務のエキスパートとして、これまで以上に期待しているから」
「は……はい」
「……と、いうわけで、早速で悪いんだけど、ひとつ、頼まれてくれない?」
すると、ドーンは急に息を吹き返したかのように元気になって、
「えっ!? はっ、はい。かしこまりましてござます。なんなりと」
頼んだのは、このところのミスティアG&Pブラザーズの動向の調査。レオ・ザ・デスマッチのこれまでの行状をかんがみれば、カオス・スペシャルの販路拡大のため、周辺の町のシーフ・ギルドとの抗争を始めていてもおかしくはない。どうしても知りたいというほどではないが、知っておいて損はないし、(彼らとビジネスパートナーとなった今では)それほど危険な調査でもないだろう。諜報機関としては、丁度好い練習になると思う。
ドーンは元気よく胸を張り、
「了解しました。早速、調査に移ります」
と、勢いよく執務室を飛び出した。プチドラはその後ろ姿を見て、
「仕事をもらってあんなに喜んじゃって…… 『単純な』といって、いいのかな」
「さあ、どうかしら。でも、使いやすいことは確かよ」
ドーンを送り出した後、わたしは特に何をするともなしに、ぼんやりと窓の外を眺めていた。ところが、しばらくすると、ドーンが何やらただ事ならぬ雰囲気で執務室に駆け込み、
「カ、カ、カッ、カトリーナ様!!!」
「どうしたの? いくらなんでも速すぎるけど、もう調査が終わったの?」
「調査は部下に指示を出しました。そうじゃなく、別件で…… とっ、とにかく! とにかく、大変なんです!!」
ドーンは蒼ざめ、全身、汗びっしょりになっていた。




