官僚主義の壁
ポット大臣は懸命に、騎士の館の接収が違法行為であることを説明した。接収が無理なら買い取ればいいけど、あまりにも大臣が必死に抵抗するのを見ていると、無理矢理にでも接収してみたい気分に駆られる。
「でも、騎士団って、今まで全然役に立ってないでしょ。道徳的には『働かざるもの食うべからず』よね」
「ですが、古くからの権利は侵すことができないものでして…… それに、皇帝陛下の勅命を奉じて本格的な戦争に参加する場合には、格式という点から、騎士団の参戦が求められるのが帝国の法なので、こればかりは……」
ポット大臣は資料や帝国の法令全書をめくり、汗を飛ばして説明した。騎士の権利は自然権のようなもので、それを所与の前提として物事を考えなければならないらしい。騎士を全員解任しようかと思ったら、相続の場合を除く騎士の任免には皇帝の同意が必要で、手続は相当に面倒とのこと。
適当に罪をでっち上げて財産を没収しようかとも思ったけど、ようやく領内が安定してきたところなので、あまり波風は立てたくない。
わたしはとうとう根負けして、
「わかったわ。接収がダメでも、購入するならいいでしょ」
「それならば、一応、問題はありませんが」
最初から、こうしておけばよかった。少なくとも、時間のロスは省くことができただろう。すなわち、役人を相手にするには、相当の時間と労力と根性が必要ということ。
わたしはドーンを呼び、この館の周囲にある騎士の館のうち、手ごろなものを市場価格で購入してくるよう命じた。その際、暴行・脅迫は厳禁、ただし、多少の勢力を示すことは可ということで。ドーンは早速、警護要員として館に詰めている猟犬隊員の中から、体が大きくて顔がいかついのを選抜し、物色に出かけた。
とりあえず、懸案の一つは片付きそうだ。「お茶でも飲もう」と思って、執務室に戻りかけたとき、
「カトリーナさん」
後ろから声をかけられたので振り向くと、そこにいたのはエレンだった。
「ありがとう。たった今、ドーンさんから聞いたの。校舎を買ってくれるんですって?」
エレンはいきなり、しかも感動的に、わたしに抱きついた。
「わっ! エ……エレン!? あっ、危ない!!」
わたしはエレンに押し倒されるような形で、後方に倒れこんだ。プチドラは、哀れ、わたしとエレンに挟まれてサンドイッチ状態。エレンはすぐに起き上がってわたしを助け起こし、
「ごめんなさい、カトリーナさん。うれしかったので、つい……」
「いいよ。でも、ドーンから話を聞いたのなら、一緒に適当な館を探しに行ってもよかったのに」
「大丈夫。ずっと前ら目をつけていたお屋敷がいくつかあるの。だから、さっきドーンさんに話を聞いたとき、候補として挙げておいたわ」




