またもやポット大臣の受難
初回分の納品が済んでしばらくして、わたしが執務室でアーサー・ドーン株式会社の帳簿を見ていると、
「カ、カ、カ…… カトリーナ様!」
例によってポット大臣が大慌てで駆け込んできた。今日は鼻血を流している。
「どうしたの? 顔を見れば、大体、想像はつくけどね」
すると、ポット大臣のすぐあとに、予想どおり、ハイパーミラクルに醜悪なハーフ・オーク、キム・ラードが錫杖を鳴らして現れた。
「よお、しばらくぶりだな。調子はどうだい?」
「あなたは元気そうね。人質交換の話は受け付けないわよ」
「今日はそんな話で来たのではない。もし、気に入らなければ、このままミスティアに戻ってもいいのだぞ。ただし、カオス・スペシャルの初回分は無料サービスということで、ありがたく頂戴しておくがな」
ラードはふところから金貨の詰まった袋をいくつか取り出した。
「受け取りやがれだぜ。初回分の代金だ。それじゃな」
ラードは袋を机の上に置くと、そそくさとそのまま帰ろうとした。
その時、わたしは、ふと気になったことを思い出し、
「ちょっと待って。ひとつ、ききたいんだけど……」
「なんだ?」
「この前にあなたは、カオス・スペシャルについて『戻って社長と相談する』って言ってたけど、デスマッチ社長は知らなかったじゃない。直接社長と話ができたからよかったけどね。あれは、なんだったの?」
「あ……ああ、そのことか。それについては、だな、つまりだ……」
ラードは少し間を置き(しかし、狼狽しているような様子はない)、
「本当は、この私の内緒のサイドビジネスにするつもりで考えていたのだ。而るに、せっかくの、この素晴らしいたくらみを、ぶち壊しにしてくれよって」
言ってることが本当かどうか分からないが、結構、食えないやつかもしれない。
「あなたの事情まで知らないわよ。でも、それって、服務規律違反じゃないの? 混沌の血が混じっているだけあって、考えることはえげつないわね」
すると、ラードはカッと目を見開いて錫杖で床を突き、
「キ……キサマ、図に乗るなよ。ビジネスパートナーだからって……」
「気分を害したなら謝るわ。大切なビジネスパートナーだし」
すると、ラードは、いきなりポット大臣につばを吐きかけて錫杖で1発殴りつけ、執務室を出てミスティアに戻っていった。ラードが自分の出生にコンプレックスを持っていることを忘れていたわけではないけど……
ともあれ、哀れなのは、何も悪いことをしていないポット大臣だった。




