初回分の納品
このようなわけで、エルフ姉妹の力もあり、どうにかこうにか初回出荷分のカオス・スペシャルを用意することができた。2回目以降は魔法を使わなくても間に合うとのことで、とりあえずは、ひと安心。
「助かりました。エルフ姉妹さまさまですね」
ドーンは自筆の帳簿を持って、ニコニコ顔で報告にやってきた。わたしは、ざっと帳簿に目を通し、
「まあ、初めてにしては、よくできてるわね」
「実は、エレン殿にいろいろと教えてもらいました」
なるほど、そういうことだったのね(これは、わたしの内心の声)……
「ところがですね、カトリーナ様、一つ問題点が沸いてきまして」
「問題点?」
「カオス・スペシャルをミスティアの町まで運ばなければならないのです。荷馬車1台に積み込むのですが、町の入り口で積荷がチェックされると、まずいことになりませんか?」
そういえば、カオス・スペシャルの納品は(一般原則にしたがって)持参債務、すなわち、ミスティアG&Pブラザーズの本部に運び込まなければ代金を受け取ることができないものだった。でも、それは、どうにでもなると思う。
「書類上の送り主をわたし、送り先をミスティア子爵かその孫にしておけば問題ないわ。町の入り口で何か言われたら、『開封すればオマエのクビがとぶぞ』と脅せばいい。印章も書類も正式なものだし、それに、あの爺さんと孫たちのことだから、バレる心配はないわよ」
ドーンは「なるほど」と、手のひらをもう一方のこぶしでポンとたたき、一礼して執務室を出た。
初回分の納品は、問題なく済んだ。町の入り口で積荷をチェックする衛兵は、予想どおり、法よりも自分の身が大切らしく、あっさりと通過を認めたとのこと。
「うまくいきましたよ。カトリーナ様の読みどおりでした。実に愉快」
ドーンは大笑いしている。ただ、うまくいったことはめでたいとしても、手放しで喜べるような話ではない。自分の身がかわいいのは、何もミスティアの衛兵ばかりではなく、猟犬隊だって……
「でも、ドーン……」
わたしは、言いかけて、口をつぐんだ。「うちにそんな不心得者はいないでしょうね」と言いそうになったけど、
「なんでもないわ。ありがとう。戻っていいわよ」
ドーンは何やら得心が行かない様子だけど、一礼して執務室を出た。
猟犬隊は大きくなりすぎている。わたしの(あるいはドーンの)目の届かないところで絶対的な暴力装置が腐敗を始めれば、そのうち手が付けられなくなってしまう。猟犬隊の監視や牽制のため、もう一つ、別の組織が必要かもしれない。でも、この話は、いずれまた……




