アーサー・ドーン株式会社
多少、腑に落ちない点も残るが、カオス・スペシャルのセールスは成功。あとは、品物を納品するだけとなった。ちなみに、カオス・スペシャルの継続的供給は、新たに法人を設立して行うことになっている。法技術的には、わたしが全株を所有し、ドーンが代表取締役社長となる株式会社で、商号は安直にアーサー・ドーン株式会社。
ところが、わたしが執務室で祝杯をあげていると、いつものように報告に訪れたドーン曰く。
「カトリーナ様、少しまずいことになりまして…… 実は、混沌の領域に駐留している猟犬隊員の話によりますと、原料植物が収穫できるまで、もうしばらくかかりそうで、今すぐに納品することはできないそうです」
「えっ、本当!? それは困ったわね。何事も、最初が肝心だから」
「そうなんですが、こればかりは、どうしようもなく……」
ドーンは腰をかがめて頭を掻いた。愚かなことに、植物の成長には時間がかかるという当たり前のことを失念していたわけだ。
「いいわ。その件は、わたしの方でなんとかしましょう。でも、あなたは、帳簿の付け方とか、ちゃんとした事業報告書の書き方とか、事務的な文書の作り方とか勉強しておくのよ。なんといっても社長なんだから」
「かしこまりました」
ドーンは一礼して執務室を出た。ドーンに勉強しろと言ったのは、代表取締役の株主に対する責任として、バランスシートまで作れとは言わないけど、そういうこと。
机の上で寝そべっていたプチドラは、
「マスター、『なんとかする』って、どうするの? 収穫できないんじゃ仕方がないと思うけど……」
「多分、なんとかなるわ」
わたしはプチドラを抱き、執務室を出た。カトリーナ学院初等部の授業は終わっているようだ。教室を覗いても生徒はいない。その代わりというわけではないがエレンとドーンが談笑している。「勉強しなさい」と言ったのに、仕方のない男だ。
中庭では、5人の魔法特待生が居残り特訓中。メアリーが先生だけど、今日は数人掛かりのコラボ魔法を伝授しているのだろう、マリアも一緒にいる。
わたしはプチドラを抱いてメアリーのもとに駆け寄り、
「授業中、悪いんだけど、ちょっと…… みんなに、特別課題を与えるから」
特別課題とは、メアリー、マリア及び魔法特待生が合宿形式で混沌の領域に赴き、みんなで成長促進魔法をかけてカオス・スペシャル原料植物の生育を早めるという荒業。でも、メアリーは、う~んと首をひねり、
「申し訳ありませんが、わたしの得意分野ではありませんし、生徒たちにも、まだ、そこまでの技量は……」
「多少、失敗してダメにしても構わない……ということはないけど、仕方ないわ。とにかく早急に、ある程度の量を確保しなければならないから。」
結局、最後には、ごり押しのような形で、とりあえず問題は解決。なお、特待生は「遠足だ、合宿だ」と喜んでいた。




