ミスティアの入り口
次の日の朝早く、館の中庭では、プチドラが本来の隻眼の黒龍の姿に戻り、出発を待っていた。わたしがカオス・スペシャルの入った壺など必要なものをバックパックに詰め込み、隻眼の黒龍の背中によじ登ると、
「カトリーナ様、お待たせしました」
メアリーが槍に横向きに腰掛け、バルコニーからフワリと舞い降りた。バルコニーでは、マリアとエレンが手を振っている。
今回のミスティア行きは、スピード重視の関係から、当初、わたしとプチドラだけで済ませるつもりだった。ところが、プチドラが「街中で必ず迷子になるので危ない」と反対したので、それならばということで、メアリーが護衛兼道案内として同行することになった。
「それじゃ、行きましょう」
促されると、隻眼の黒龍は大きなコウモリの翼を広げ、ゆっくりと上昇。さらにメアリーも続いた。わたしはバルコニーのマリアとエレンの方を向いて手を振った。
そして……
ミスティアに着いたのは昼過ぎだった。
前回は地上を進んで数日かかったが、空を飛んでいくと時間がかからなくていい。なお、いきなり街中にドラゴンが飛来というわけにはいかないので、わたしたちは町の手前で地上に下り、プチドラは、隻眼の黒龍から子犬サイズに体を縮めた。わたしはいつもの群青色のメイド服にバックパックを背負っている。メアリーは、久々に、ミスリル製のプレートメールで完全武装。
「あの…… 本当によろしいのでしょうか」
メアリーが済まなさそうな顔をしてわたしを見た。
「いいの。一番自然な形で町に入れるから。頼むわよ、ご主人様」
わたしはポンとメアリーの背中を押した。メアリーが申し訳なさそうにしていたのは、メアリーが騎士でわたしが従者という役割を演じることになっていたからだ。どこでもそうだけど、正規に町に入る際には通行証や身分証のチェックが行われる。武装したメアリーとわたしが正体を明かさずに町に入れるよう、証明書を完璧に偽造し(証明書用紙や印章はウェルシー伯が所持する本物なので、当然ながらバレることはない)、とある騎士とその従者というシチュエーションで町に入ることしていた。なお、面倒なことにならないよう、プチドラはバックパックの中に隠れている。
町の入り口では、衛兵が通行人ひとりひとりを入念にチェックしていた。通行証や身分証を確認し、必要があれば尋問し、持ち物を検査し…… ただ、これには抜け道があって、通行人が高貴な身分の場合や袖の下を受け取らされた場合には、事実上、チェックが簡略化されることになっている。わたしたちは、完璧な偽造証明書とささやかな心付けのおかげで、難なく町に入ることができた。




