ポット大臣の無意味な抵抗
キム・ラードが去り、ほっと一息ついたとき、
「カ、カ、カッ……カトリーナ様!」
眼の周りを腫れ上がらせたポット大臣が、まるでこの世の終わりが来たような形相になって、
「こっ、これは、一体、どういうことですか!? ま、まっ、麻薬を、売るなんて…… バレたら大変なことに!」
「そういえば、大臣にはまだ話してなかったっけ? つまるところ、今、大臣が見たり聞いたりしたとおりだから、そのつもりでね。でも、大丈夫、心配ないわ。バレなければ全然問題ないし、もしバレたとしても、証拠を隠滅してG&Pブラザーズに全責任を負ってもらえば済むことよ」
ポット大臣は「ああ」とうめき声を上げて両手で頭を押さえ、その場に座り込んでしまった。
「大臣、念のために言っておくけど、ここで見たり聞いたりしたことを他人に漏らした場合、秘密漏洩の罪で厳正に処罰されるから、そのつもりでね」
ポット大臣は、とうとう観念したのだろう、立ち上がって一礼し、執務室を出た。
ブー……
不意に、背後で豚のうなり声? と、思って振り向くと、そこに立っていたのはドーンだった。
「ドーン、急にどうしたの? いきなり、ブーって……」
「カトリーナ様、どうしてカオス・スペシャルをあんなに安く売ってやるのですか。それでは我々の儲けが減ってしまいますよ」
「不満なの? ドーン、あなた、意外と欲が深かったのね。本当はもっと安くしてもよかったのよ」
「どうしてですか? 我々で売れば、もっと儲かるのに」
「だって、原価はタダ同然だから、少なくとも損だけは絶対にしないでしょ。それに、これから全国に販売網を作り上げるためには時間と費用がかかるし、自分たちで販売しているとバレる危険も高まるわ。G&Pブラザーズは麻薬を売りさばくノウハウも持ってると思うから、一番危ない橋は、やつらに渡ってもらえばいい。その危険に見合う分の利益は、やつらに渡してやらないとね」
「なるほど…… でも、デスマッチが話に乗ってくるでしょうか」
「それは分からないけど、社長のデスマッチが本質的に商人なら、多分、食指が動くと思うわ」
ドーンはなおも納得がいかない様子。でも、他の仕事もあるので、しぶしぶながら、執務室を出た。
プチドラは机の上にちょこんと座り、退出するドーンを横目で見ながら、
「さ~て、どうなるかな」
「分からないけど、ここはひとつ、速戦即決で畳み掛けるようにいってみましょう」
「へっ?」
「速攻、ミスティアまで、デスマッチに会いに行くの。で、その場でYesかNoか、ハッキリ言わせるのよ」




