シーフギルド
「ま・や・く??」
「はい、麻薬です。精神に作用し、酩酊・幸福感・幻覚などをもたらす薬物のうち、依存性や毒性が強く健康を害する恐れがあるものをいいます」
「それくらい知ってるけど…… ドーン、あなた、妙なものには詳しいのね」
「もともと非合法活動してましたから、そのくらいのことは」
話によれば、ボコボコにされた中年男は隣国のシーフギルドに所属するシーフで、こっそりと人ごみに紛れて麻薬を売っていたという。麻薬はやはりどこでも非合法で、帝国の法によって諸侯に麻薬の取締りが義務付けられているそうだ。麻薬の取締りを命令した覚えはないけど、ドーンによれば、町の警察に関する事項として、事務的にポット大臣から引継ぎを受けたとのこと。
シーフというと、RPGで鍵のかかったドアや宝箱を開けるための技術者というイメージがあるけど、そのほかにも、強盗、暗殺、用心棒、麻薬の密売など、非合法ならなんでもありの商売もしているらしい。
「でも、隣国のシーフギルド員が密売って…… この町のシーフギルドは文句を言わないのかしら。」
「この町にシーフギルドはありませんよ。カトリーナ様が町の実権を掌握したときに、粛清ついでにぶっ潰してしまいましたから。当然、ギルド員も皆殺しです」
「そうだっけ?」
今となってはかなり昔の話のような気がするけど、言われてみれば、確かにそんなことがあったかも。
「というわけで、この街のシーフギルドがなくなった言わば真空地帯、そこに向かって、近ごろ、隣国のシーフギルドがこの町に浸透しようとしているので、我々としては油断できないのです」
ドーンは拳を握りしめて言った。ウェルシー領内のシーフギルドが撲滅されたため、この機に乗じ、隣国ミスティアのシーフギルド、「ミスティアG&Pブラザーズ」が、ウェルシーに支部を設けようと、悪の魔の手を伸ばしてきているとのこと。
「G&Pブラザーズって??」
「結構手ごわいのです。そこのギルドマスターがなかなかのやり手で、かなりの野心家という話もありますが、将来的には、シーフギルドの全国組織『カバの口』を牛耳ってしまうのではないかと言われているくらい、裏の世界では相当に有名な人物でして……」
「か・ば・の・く・ち???」
「そうです。『かばのくち』です。名前は間が抜けてますが、帝国内のシーフギルドの6割程度が加盟するガリバー型寡占状態の(おいおい……)巨大組織です」
シーフが(通常は)町単位で結成する秘密結社がシーフギルドで、シーフギルドが会員となって構成する全国組織の一つが、名前はふざけているけど「カバの口」ということらしい。世の中、表があれば裏もあるということか。