秘密調査
これといってうまい手があるわけでもないが、わたしは執務室にドーンを呼んだ。しばらくするとドーンがやって来たが、執務室に入るなり、大きくため息をついて、
「あのハーフ・オークめ、館を出るまでに狼藉を繰り返していったようです。備品が壊されたり猟犬隊員が怪我をしたり、実にイヤなヤローです」
「そうだったの。子供たちに被害はなかった?」
「その点は大丈夫だと思います。エレン殿の話では、エルフ姉妹が教室に張り付いていたとか」
一応、学院の院長の立場としては、子供たちが無事なのは朗報だ。
「ドーン、イヤなヤローが相手の場合、こちらとしては、もっと相手が嫌がりそうなことをしないといけないわ」
「それはどういう意味ですか?」
「そのためには、まず、相手を知らなくては。だからね……」
わたしはドーンを引き寄せ、耳元でごにょごにょとささやいた。相手が嫌がりそうなことをするために、「G&Pブラザーズ社長レオ・ザ・デスマッチと専務キム・ラードについて、生い立ちや経歴や性格等々、猟犬隊を動員して徹底的に調べ上げよ」と。
「分かっていると思うけど、ドーン、調査は秘密裏に進めるのよ。むかついたからって、G&Pブラザーズのギルド員を殴り殺したりしてはダメ。やつらにバレて警戒されたら意味がないんだから」
「難しい注文ですが、わかりました。なんとか、やってみます」
ドーンは執務室を出た。少しばかり元気が出てきたようだ。プチドラはそれを横目で見ながら、
「マスター、狙いは分かるけど、そんな悠長なことをしていて大丈夫かな」
「大丈夫かどうかは分からないけど、『すぐに答えを出す必要はない』って言ってたから、ある程度、時間の猶予はあると思うわ。あのハーフ・オーク、自分たちが優位に立ったつもりでそう言たのかもしれない。ここは、やつらの油断を利用させてもらえばいいわ」
わたしはプチドラを抱き、教室に向かった。子供たちが心配というわけではなくて、エルフ姉妹にも、ドーンと同じことを頼もうと思ったから。
教室のドアを開けると、例によって、わたしは子供たちに囲まれてしまった。でも、今回は、いつもと少し感じが違う。エレンの話では、ハーフ・オークが廊下で殺陣さながらの大立回りを演じていたそうで、子供たちはすっかり震え上がってしまったとのこと。しかし、エルフ姉妹が駆けつけると、ハーフ・オークは急に向きを変え、さっさと立ち去ってしまったらしい。
わたしは適当に子供たちをなだめながら、エルフ姉妹をつかまえ、社長レオ・ザ・デスマッチと専務キム・ラードの徹底調査を頼んだ。ドーンに比べれば結果が期待できそうだ。




