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ザ☆旅行記Ⅳ カオス・スペシャル  作者: 小宮登志子
第3章 麻薬ではなく滋養強壮剤
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いまいましい和平提案

 キム・ラードは錫杖で床をシャリンと突き、執務席に座っているわたしの目の前に歩み寄った。そして、腰をかがめ、激しく醜い顔をわたしに近づけた。わたしは思わず、ゲロゲーロ(なお、これは、その時の気分を擬音で表現したもの)!

「我々の主張は次の3点。まず、G&Pブラザーズは、猟犬隊の方々の滞在費用を伯爵殿に請求する権利を有すること。2点目は、我々の伯爵殿への債権と伯爵殿から我々への債権を同額とみなし、それらを相殺すること。3点目はビジネスの話で、今後、G&Pブラザーズと伯爵殿は長く誼を結び、共存共栄を図ること。これがどういう意味か、説明するまでもないだろう」

 言い終わると、ラードは胸を反り返らせて、得意げにわたしを見下ろした。G&Pブラザーズの提案は、理論的には、お互いの債務の消滅を理由とした人質交換だろう。たかがシーフギルドの分際と思っていたけど、なかなか油断ならない。人質交換の話については、一応、意味は分かるけど、

「2点目までは理解できたわ。でも、最後の『長く誼を』とか、『共存共栄』とか、具体的に、どういう意味?」

「それはつまり、例えば、G&Pブラザーズにウェルシー領内での活動を認めていただくとか……」

「麻薬の密売を認めろと言いたいの?」

「そんな、とんでもない。しかし、口に出さなくても心と心で通じ合う部分があるのではないか? 本来ならば、我が本社が爆発・炎上した事件の見舞金を請求したいところだが、その分はサービスだな」

「なにがサービスよ。あなたたちの火の不始末が原因でしょ!」

 わたしは思わず机を平手でたたき、立ち上がった。気持ちが悪いなどと言ってられない。わたしはラードをにらみつけた。


 にらみ合いはしばらく続いた。「気持ちが悪いと言ってられない」とはいえ、やはり生理的には気持ちが悪い。「もうそろそろ限界か」と思われたとき、突然、ラードが後方に飛び退き、

「がははははは!」

 と、大声で笑い出した。そして、錫杖でシャリンと床を突き、

「本気か冗談かは知らんがな、伯爵殿は怒った顔の方がチャーミングだぞ。いずれにせよ、すぐに答えを出す必要はない。が、よく考えることだ」

 ラードはクルリと背を向け、ドアの方に歩き出した。ドーンはその隙を見逃さず、

「このヤロウ!!」

 と、後方から殴りかかろうと拳を振り上げた。が、ラードが錫杖で軽く床を突くと、どんな魔法なのか、ドーンは弾き飛ばされて壁に背中を打ちつけ、そのまま床に崩れ落ちた。

 キム・ラードは振り向き、一言、

「伯爵殿の叡智には大いに期待しておるよ。がはははは!」

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