ポット大臣のたんこぶ
ドーンによれば、事件の詳細は、3日前に3人、2日前に5人、そして昨日は4人の猟犬隊員が、国境警備の任務に出たまま、結局、戻って来なかったとのこと。
「でも、ドーン、本当は、任務がきつくて逃げ出しただけじゃないの?」
「いやあ、そう言われると思ったものですから、報告しにくかったのですよ」
ドーンは頭を掻いた。
正直なところ、少しばかりの猟犬隊員がいなくなったとしても任務にあまり支障はなく、反対に、食い扶持が減ってくれる分、ありがたかったりもする。
「でも、脱走が続くようならマズイわね」
「はい、軍紀を一層厳しくして、引き締めます」
それは当然のことだ。わたしとしては、もう少し具体的な方策をききたかったんだけど……
その時、
「カトリーナ様、大変です!」
ポット大臣が血相を変えて駆け込んできた。
「一大事です! キム・ラードと名乗るハーフ・オークが!! 大暴れして!!!」
ポット大臣はゼイゼイと肩で息をして言った。頭に大きなたんこぶをこさえている。なんだかよく分からないが、柄にもなく大立回りを演じてきたのだろうか。
それはともかく、気になることといえば、
「ハーフ・オークというと、ひょっとして……」
わたしは横目でドーンを見た。ドーンは眉をしかめ、
「きっと、あいつですよ。G&Pブラザーズの社長室にいた…… あいつ、生きてやがったんですね」
どうやら考えていることは同じようだ。
「とっ……とにかく、早く来てください!」
ポット大臣は鳥のような声で叫ぶ。わたしとドーンはポット大臣に促され、館の正面玄関に向かった。
正面玄関では、黒いローブを着て錫杖を持ったハーフ・オークを、猟犬隊が取り囲んでいた。予想していたとおり、G&Pブラザーズで社長と一緒にいたやつだ。わたしはハーフ・オークをちらりと見て、
「館に殴りこむなんて、いい度胸ね」
「殴り込みだって? 私には、そんなつもりは、まったくない。私はG&Pブラザーズ代表取締役社長レオ・ザ・デスマッチの命を受け、話し合いに来ただけだ。喧嘩を売ったのはそちらの大臣ですぞ!」
ハーフ・オークは、不敵な……というより、ものすご~く気味の悪い薄ら笑いを浮かべた。




