大量生産に向けて
麻薬密売の容疑で拘束しているミスティアG&Pブラザーズのギルド員を使った麻薬の人体実験……ではなく、滋養強壮剤の臨床試験が始まった。つまり、(重ねて言おう)断じて麻薬ではなく、滋養強壮剤を服用させてみて、効用や毒性や依存性などを、詰まるところ、どのくらいラリるかを調べるというものだ。
実験を開始してから1週間程度たって、ドーンが執務室まで報告にやって来た。
「カトリーナ様、効果は上々です。売り出せば、きっと、ガッポリ儲かりますよ」
「副作用みたいなのはないかしら」
「麻薬に副作用はつきものですよ。依存性は従来の麻薬よりも若干高めですが、その他については、従来のものと違いはありません」
「そう。依存性が高めなら好都合ね。大量生産して売り出しましょう」
「大量生産ですか。でも、どこで? 新しいタイプの『滋養強壮剤』といっても、実質的には麻薬、いや、アレですから、目立つところに植えるとマズイですよ」
「分かってるわ。方法はこれから考える。あなたは、やつらがラリってラリってラレルレロって、完全にぶっ壊れるまで実験を続けなさい」
ドーンは一礼して執務室を出た。麻薬は禁制品、領内で原料植物を栽培して大量生産するわけにはいかない。でも、領内でなければ…… ドーンには「これから考える」と言ったけど、ある程度のプランはある。
「プチドラ、混沌の勢力の王様のところまで、交渉に行ってほしいの」
「交渉はいいけど、マスター、それは一体、どういうこと???」
「領内ではヤバそうだから、混沌の領域で原料植物を栽培させるのよ。確か、この前の戦争後の休戦協定では、混沌の勢力が貢物を差し出すことになっていたはずよね。その休戦協定を改定して、貢物を少しばかり減免してやる代わりに、原料植物を栽培させるのよ。で、麻薬に加工させて納品させればいいわ。こちらからは、監督・監視の意味で猟犬隊を派遣することにすれば、目立たずに大量生産できる」
「なるほど…… でも…… う~ん、いいのかなぁ……」
プチドラは、気が進まない様子で中庭に出た。そして、体を大きく膨らませ、巨大なコウモリの翼を広げた。
「マスター、それじゃ、行ってくるよ」
「頼むわ」
わたしは見送りに出たバルコニーから手を振り、プチドラ本来の姿、隻眼の黒龍を見送った。
「あの…… 本当にこれで、いいのでしょうか……」
わたしの隣では、マリアとメアリーが(わたしが気付かないうちに隻眼の黒龍の見送りにきたようだ)、なんだか非常に心配そうな表情。
少なくとも「善い」行いではないだろうが、良くても悪くても、ここまで来たら、あとは勢いと気合で行く以外ない。




