猟犬隊のお仕事
わたしはプチドラを抱き、ドーンとともに町に出た。ここしばらく、南方のリザードマンの領域やら帝都やら、国を空けてばかりだったから、ミーの街中を歩くのは久しぶりだ。
大通りや市場には人が戻ってきていて、威勢のよい声が飛び交っている。アメ横や中東のバザールには程遠いにしても、品物はそれなりに揃っているようだ(地方のシャッター通りや旧ソ連の百貨店みたいなことはない)。少しずつとはいえ、復興は進んでいるように見える。でも、なんだか少し妙なことといえば、
「ドーン、町の人たちがわたしたちと目を合わさないように顔を伏せて道を開けるのは、どういうこと?」
まさか、いきなりわたしの正体がばれたということはないと思う。わたしが今着ているのは帝都の宮殿でもらってきた群青色のメイド服だから、格好でわたしが領主と分かるはずがないし、町の人々がわたしの顔を知っているとも思えないし……
「ああ、それはですね、きっと、この猟犬隊のユニフォームのせいです」
ドーンによれば、猟犬隊は町の人々からすごく恐れられていて、本音では「絶対にかかわりあいたくない」と思われているそうだ。猟犬隊は、一応、秘密警察だから、これも当然の反応かもしれない。
「ドーン、仕事熱心なのはいいけど、職権濫用はダメよ」
「その点は、隊員をきっちり教育していますから、大丈夫と思います。はい、多分、大丈夫かと……」
なんだか心許ない回答だけど……
その時、
「ゴラァー! おまえは、こんなものを売ってたのかぁー!!」
ドスの利いた声が大通りに響いた。声のする方に行ってみると、黒いローブを身にまとった二人組が、中年の男一人をボコボコにしていた。わたしは黒いローブの二人を指差し、
「あれは、猟犬隊? そうよね。一体、どうしたの??」
「そうです。猟犬隊です。えーと、はい、ちょっと事情を聞いてきます」
ドーンは少し狼狽し、二人のもとへ向かった。「大丈夫」と言ったけど、本当に大丈夫だろうか。ドーンは、しばらく二人と話をしてから、ホッとしたような顔で戻ってきた。
「分かりました。問題ありません。猟犬隊が現行犯逮捕した現場でした」
「現行犯? あの中年、何をしでかしたの?」
「これです」
ドーンは小さな皮袋を示した。その中には乾燥した植物の葉が入っていた。初めて見るものだけど、
「これ、なんなの?」
「麻薬です。実にけしからんことなのですが、あの中年は麻薬の密売人だったようなのです」