滋養強壮剤の完成
館に帰ってからしばらく、この日も、いつものように、
……カリカリカリ…… ……カリカリカリ……
執務室からは羊皮紙に羽根ペンを走らせる音が響いていた。書類に目を通してサインするという、退屈な午前のノルマ。面倒だけど、わたしの名前の借用書が紛れてたりするかもと思うと、他人に任せるわけにはいかない。
ミスティア訪問を終えて幾日もたっているが、G&Pブラザーズからは、なんの音沙汰もなかった。本部の爆発・炎上の際、本当に、ギルドマスターも巻き添えになったのだろうか。もし、そうなっていたなら、人質のギルド員の食費は惜しい。身代金を取れないなら、収容所送りを検討しなければならない。
……コンコン……
突然、ドアをノックする音が聞こえた。
「いいわよ、入って」
「失礼します」
ドアを開けたのは、メアリー…ではなく、エルフ姉妹の妹、マリアだった。この二人、容貌がとてもよく似ている。
「あら、あなたが執務室に来るって、珍しいわね。どうしたの?」
「はい、この前の、その、例のブツ…… いえ、え~っと…… そう、滋養強壮剤が完成しまして……」
「えっ!? 本当!?」
わたしは思わず立ち上がった。そして、マリアのもとに駆け寄り、その手を握りしめた。
「ありがとう。意外と早かったわね。それで、例のブツ、麻薬…じゃなくて、滋養強壮剤はどこに?」
「はい、これから案内します」
マリアはくるりと向きを変えて歩き出した。
わたしはプチドラを抱き、マリアのあとを追う。マリアは魔法で障害物を感知しながら進んでいるのだろう。目は見えないはずだけど、足取りはしっかりとしていて動きも素早い。プチドラは何やら不安そうな顔で、
「でも、麻薬って…… 本当に、こんなことしていいのかな」
「いいのよ。あくまでも滋養強壮剤だから。麻薬じゃないわ。念のために強調するけど、麻薬じゃなくて、滋養強壮剤よ」
もちろん、ばれたりしたら、非常にヤバイ話になるはずだけど、その時は、その時のこと。
やがて、マリアはドアの前で立ち止まり、
「ここです」
案内された先は、エルフ姉妹の部屋だった。丁度、部屋の中に並べられた鉢植えに、メアリーが水をやっている最中。
マリアはおもむろに、机の上の小さな壺を手に取って、そのふたを開け、
「そして、これが、葉を乾燥させて粉末にした…… え~っと、滋養強壮剤です」




