G&Pブラザーズ本部破壊指令
ひとまず落ち着いたところで被害状況を調べてみると、それほど大したものではなかった。わたしは打ち身が少々、他は少し火傷をした程度で、死者も重傷者もいない。あとは物損が少しばかり。
メアリーはその状況を見て、
「相手は力を抑えていたのではないかと思います。本気なら、もっと被害が出ていたでしょう」
「それなら、こちらはもう少し……ほんの少しだけ本気度を上げましょう。相手が『もう少し力を入れてよけばよかった』と後悔する程度に。先に打った手を悪手にさせるのが勝負の鉄則みたいなものだから」
「と、おっしゃいますと?」
「相談なんだけど、メアリー、遠距離から一撃でG&Pブラザーズ本部をピンポイントに爆発・炎上させるみたいな方法はないかしら。周囲の建物にはなるべく被害を与えないように」
「目視できる距離であれば、魔法でなんとか……」
「それじゃ、方法は任せるから、G&Pブラザーズ本部を完全に破壊するのよ。ギルド員が犠牲になっても構わないわ。運が悪かったとあきらめてもらいましょう。一撃でぶっ壊したら、すぐに戻ってきてね」
「わかりました」
メアリーは一礼し、持っていた槍を地面に置いた。そして、槍に手を触れ、呪文を唱えて何やら不思議な力を込めると、槍は30センチほど宙に浮いた。
「では、行ってまいります」
メアリーは横向きに槍に腰掛けた。すると、槍はメアリーを乗せたままフワリと垂直に上昇し、やがて、メアリーは銀色の髪をなびかせて東の方向に飛び去った。
「大丈夫でしょうか。我々が乗り込んでぶっ壊す方が簡単のようにな気がしますが」
ドーンは、なんだか面白くなさそうに言った。メアリーとライバル関係にあると思っているのかもしれない。でも、他国の軍隊が侵入して街中で乱暴狼藉を働けば外交問題だし、何よりも優美さに欠ける。それに、白昼堂々の襲撃で正体がバレバレでは意味がない。「犯人は明らかだけど証拠がない」のが理想的だから。
そういえば、先刻はあまりにも自然体だったから不思議に思わなかったけど、
「プチドラ、突然、妙なことをきくけど、槍に乗って空を飛ぶことができるの?」
「えっ? ああ、メアリーの槍のことだね。あれは、厳密にいえば、槍の用途も兼ねた魔法の杖なんだ。ハイレベルの魔法使いは、魔法の杖を使って空を飛ぶことができるよ」
魔法使いと魔法の杖は切り離すことができない関係のようだ。なお、杖の形状は特に決まっていないらしく、メアリーの杖は槍で、いつぞやのマーチャント商会ハーレムのメイド長は箒だった。それじゃ、マリアは……? 帰ったら、きいてみることにしよう。




